書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

たけぞう
レビュアー:
家事をやりたい気持ちになる一冊。
幸彦、大手新聞社政治部所属、四十三才。休日出勤も多く、政治家と渡り合うことに生きがいを感じ、妻の内助の功と自分の頑張りという形です。妻の鈴奈もライターの仕事を手掛けて家で働けるスタイルを見つけ、映画評などを書いていています。コロナ禍の時も、保育園に通う娘の理央のサポートも鈴奈がしてくれて、すべて順調でうまくいっていると思っていました。

突然、鈴奈が家を出ていきました。机の上に、一年間の幸彦の行動記録を書いたノートが置いてありました。鈴奈は、理央を連れて大阪の実家に帰っていったのです。幸彦は訳が分かりません。でも、すぐには帰ってこないだろうということは分かりました。離婚届も一緒に置いてあったからなのです。

幸彦は、異動を希望することにしました。家庭が犠牲になってしまうほど頑張ったのに、コロナ禍でしばらく出社できなかったとき、代打の社員で務まってしまい、替えが効くことに気づいてしまったのです。配属先は大阪支社です。もごもごと鈴奈に言い訳をする幸彦。しかし、この大阪での一人暮らしが、きっかけになったのです。

幸彦の生活は荒れ放題で、妹が心配してくれて山の上の家事学校を紹介してくれました。半強制的に、行くようにという感じです。生活が荒れたのは不満ではなく、たんに生活能力の欠如だったのです。

家事学校は、男性のみ入学を受け付けています。寮生活方式です。料理だけでなく、掃除、洗濯、裁縫など、中学校の家庭科の授業みたいです。教わるというよりも、生徒が助け合う共同作業方式で、先生がつきっきりという形ではありません。幸彦も最初は戸惑いましたが、だんだん慣れてくると楽しくなりはじめて、徐々に生活能力を身につけていきます。文中での生徒たちの言動や行動にはあるあるがいっぱい詰まっていて、読んでいるこちらも、そうそう、分かっているけどなかなかできなくてという言い訳の気持ちまであけすけに書かれていて、非常に身につまされるものがありました。

最近の中学校の授業は、技術科・家庭科は男女一緒ですが、むかしは技術科は男子、家庭科は女子という振り分けがあったんですね。だから中年世代の読者のこころをとらえつつも、片親の家庭が増えた現代では、別の角度から二十代・三十代のこころをとらえるように思いました。家事の必要性と家庭内のアンバランス問題は、昔よりもいまのほうがむしろ深刻で、親との同居が減ったいま、家事能力の必要性は増しているように思います。

納得感の高い一冊でした。いろいろな教育手法がありますが、この本を中学校で読むと、一つの教育になるように思いましたよ。もちろん、むかしの男女区別時代の教育を受けた世代にとっても、非常に有効です。

家事をやりたくなりました・・・こう書くと、ふだん何もやっていないように聞こえますが、そんなことはなくて、最低限のことは当然やっていますよ、、、という気持ちになったオッサンの鼻を遠慮なくへし折ってくる一冊です。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

読んで楽しい:5票
参考になる:23票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『山の上の家事学校 (単行本)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ