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休蔵さん
休蔵
レビュアー:
毎年、大規模な自然災害が発生している昨今の日本列島。そのことに怯えるだけではなく、日ごろの対策が重要だと思う。それは異国の侵攻に対しても同じことが言えるのかもしれない。そんなことを想わせてくれた1冊。
 南海トラフや首都直下型地震の発生が懸念される日本列島。
 それ以外にも各地で地震が発生し、火山の噴火も心配。
 温暖化の影響として雨の降り方が変わったという話も聞くし、線状降水帯と言う言葉もすっかり耳になじんでしまった。
 日本列島に暮らす私たちにとって、自然災害を心配するのは当たり前のこと。
 テレビやネットでも盛んに特集が組まれている。
 しかしながら、海外からの侵攻に対しては、自然災害ほどには心配されていないかもしれない。
 少なくとも、私自身のなかには自然災害への不安のほうが圧倒的に大きい。
 そんなのんびりした気持ちに喝を入れてくれた小説が本書である。
 
 本書は『宣戦布告』で北朝鮮兵士の侵攻をリアルに描き出した麻生幾による。
 台湾有事に際しては、最初に沖縄諸島から侵攻が始まるという視点で描き出した軍事小説である。
 台湾周辺における中国人民解放軍の演習は、絵空事ではない。
 物語はそこを起点にする。
 日本政府は台湾有事を念頭に、アメリカ軍の作戦の支援を検討し、台湾に程近い先島諸島の石垣島と与那国島に陸上自衛隊の事前配置を急ぐ決断を下す。
 そんな情勢をすり抜けるように、先島諸島の島々は静かな敵兵の侵入を受けていく。
 こんな情勢に日本政府や自衛隊はいかに対応するのか、そして敵が練り上げた作戦とは?
 500頁近いボリュームの1冊で、さらに軍事用語が次々と登場して少々疲れはしたが、読み応えたっぷりの1冊だった。

 日本列島では毎年のようにどこかしらで大規模な自然災害が発生する。
 復興する間もなく次々と。
 “悪意”ある敵がその隙をついて侵攻する可能性はゼロではない。
 ただ、日常生活を送るなかで、そんなことにまで心配が及ぶ人がどれほどいるだろうか。
 少なくとも、私はのんびりと生きている。
 自然災害に怯えることはあっても、敵の侵攻をリアルに想像することはできないでいた。
 ウクライナに対するロシアの侵攻やイスラエルにおけるハマスの侵攻の報道を見ても、それはどうしても“他人事”として受け取っていた。
 本書は小説という形をとっている。
 そのためリアルとは言い難いところはあるが、それでも日本列島の地理的な情勢をしっかり理解するきっかけにはなると思う。
 
 東アジアの情勢は、決して油断して構えるわけにはいかない。
 とは言え、無暗に他国を敵視することは間違っている。
 特に民間レベルでは、さまざまな交流を盛んに行うべきである。
 それでも様々な可能性を視野に入れる必要はある。
 それは政治や行政だけに任せて良いものではない。
 もちろん、1民間人に何かしらできるわけではないが、それは自然災害への備えも同じだと思う。
 自然災害を完全に防ぐことはできない。
 防災から減災へと考え方をシフトチェンジしようという考えは正しいと思う。
 そして、減災をしっかりするためには、自然災害に対するリアルな情報をもとにした想像が不可欠だ。
 同じことが軍事的侵攻についても言えるかもしれない。
 本書と同じことが起きるかどうかはさておき、いろんな可能性を想定するためのきっかけにはなるはず。
 ただ、楽しむだけの小説とは一線を画す作品と評価したい。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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この書評へのコメント

  1. ゆうちゃん2025-01-21 09:54

    休蔵さん、お久しぶりです!
    仰る通り、のほほんとはしていられませんね。20世紀末から、いかに世界の、そして日本周辺の情勢が変わったことか、と思います。しかも、日本は経済的にも長期低落傾向です。
    僕は、近隣国との戦争が始まってしまえば、これまでの生活が送れなくなる、という意味で「おしまい」だと思っています。そのためには、軍事的な備えも必要ですが、それでは際限がないですし財政的な制約もあります。戦前の反省として、やはり、「喧嘩別れから戦争へ」ではなく、外交的な努力も必要だと思いますし、そのためには、仰る通り民間の交流も必要だと思います。こびへつらう必要はありませんが、このままの日本であることが、自国にも大切だと相手に思わせることが大事だと思います。

  2. 休蔵2025-01-21 22:42

    ゆうちゃんさん、コメントありがとうございます。
    民間レベルの交流を盛んに推し進めることが何より大切な気がします。
    ある共通のテーマに興味を覚える者同士が集まって、言語の不自由をなんとか克服しての交流。
    いまでは翻訳をしてくれるアプリもあります。
    お互い変な翻訳を笑い合いながら、民間レベルでの交流を行うことで、いらぬ諍いを事前に防いでいくことが大切だと思います。

  3. くにたちきち2025-01-22 06:03

    休蔵さん:相変わらずの辛口の書評を久しぶりに拝見しました。
    ウクライナもパレスチナも隣の国に恵まれなかったのは不幸なことですが、他の国や国連からの支援や協力で、持ち応えていると思います。それに対して、日本は、有事の際に本当に支援をしてくれる国が、どこにあるのか?アメリカは同盟国とはいいながら、アメリカ第一を掲げる大統領の下で、どこまで日本のことを考えているのか?多くの国から観光客は来ますが、これも平和で安全だからこそではないでしょうか?
    仰るように、国民は民間レベルの交流を進めるしかありませんが、とても困難なことが多いと思います。でも、自分たちなりに身近なことからやっていきましょう!

  4. 休蔵2025-01-22 07:21

    くにたちきちさん、相当久しぶりに投稿してみました。ご無沙汰しておりました。
    辛口の書評という自覚はありませんでしたが、思うところを書いてしまうところはあります。
    さて、外国人観光客にきてもらうとやっきになれば観光公害となるし、なかなか難しいところがありますね。
    日本人の国内旅行はおろか、日常生活にも支障をきたすようであれば、いったい何のための観光誘致という気もします。
    個人的には単なる観光と言うより、いっていの共通目的を持った小規模な交流を多く重なて行くことが理想的だと思いますが、おっしゃるとおり困難も多いはず。
    やはり身近なことからやるしかないですね。

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