ぽんきちさん
レビュアー:
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平安女子のライフサイクル
今年の大河ドラマ「光る君へ」は紫式部が主人公。平安時代を舞台とした大河はなかったわけではないが、多くは源平の戦いなど、戦乱を主軸としており、今年のように宮中や貴族社会に焦点があてられた作品はほぼ初めてではないかと思われる。では戦乱が描かれないから平穏であるか、といえばそうではなく、それはそれで権力闘争があり、勝敗はあるわけである。さて、ドラマではどのように描かれていくのだろうか。
ともあれ、大河で注目を浴びたこともあり、紫式部・源氏物語を取り上げた行事や出版物も目白押しだ。
本書もそうした1つかと思えば、著者が執筆を始めたのは、大河で紫式部を取り上げると発表されるより前であったとのこと。意図せず、タイムリーな著作となった。
著者は高校時代に幾度も賀茂祭(葵祭)を見物したことをきっかけに古典の世界に魅かれ、長年、研究を重ねてきた。服飾文化を主に専攻されているようだが、本書では広く、女性たちのライフスタイルについて、わかりやすくまとめられている。『源氏物語』や『枕草子』からの数多くの例が引かれている。
内容は:
摂関政治の時代である。上級貴族の家での女児の誕生は、要職に就く夢を叶える第一歩と捉えられた。その子が天皇の后となり、皇子を産めば、外祖父として摂政・関白などとして、政治の実権を握ることが出来るのだ(これに対して、天皇家では男児の誕生が望まれた)。
子が生まれると、節目節目で祝いの行事や健やかな成長を願う儀式が行われた。
女児は見目麗しいことも大切だったが、教養もつけなければならなかった。当時は通い婚。男性はこれはと思う女性に、和歌をしたためた文を贈る。これにすぐさま返事をするには、まず字がきれいでなければならないし、「引き出し」を増やすために優れた和歌を数多く知っていなければならない。『古今和歌集』をすべて暗記するようにと娘に諭した貴族もいるというから半端ではない。全20巻、千首以上もあるのだ。しかし、そうして優れた和歌を詠めれば、よりよい相手と巡り合うことができるというのだから、努力も無駄ではなかったということか。
さらには琴や琵琶などの楽器が演奏できることも重要ポイント。女性たちは、人知れず、厳しい修練を積んだことだろう。
当時のマナーの1つとして、成人女性となったら親しい間柄でも男性には顔を見せないというものがある。ドラマだとこのあたりを厳しく守ると話が進めにくいということか、あけっぴろげに対面していたりしているが、当時は御簾や几帳で間を隔てるのが原則。これらがないときは扇で顔を隠す。扇はただの小道具的なものではなく、実用品だったのだろう。
平安ファッションといえば「十二単」や「重色目(かさねのいろめ)」。袴・単・五衣・打衣・表着・唐衣・裳といった装束を切るのだが、その際、色合わせが非常に大切である。平安中期、染色できる中間色が爆発的に増え、季節の草花の名がつけられた。重色目は、異なる色の装束を組み合わせて生まれるが、四季の区別があり、季節外れのものは容認されなかった。どんなに好きな色でも、例えば春のものとされる紅梅の衣装を秋に着ることは出来ない。色の重ね方にはセンスが現れる。色彩感覚を磨くことが非常に重要だった。
『源氏物語』では、紫の上や花散里が裁縫や染物を得意としたとされている。
妻の役割の1つとして、夫の衣装を整えることがある。裁縫や染物が上手であることは大きな長所である。上級貴族ともなると、織物所や染殿、縫物所、糸所などを自邸に備え、女主人の統括の元、さまざまな衣装を整えていたというからすごい。それだけ時宜にかなった装束を用意することは大変なことだったということだろう。
なかなか興味深いのは、斎宮が経る儀式や生活、そして斎宮を退いた後のことである。斎宮は伊勢神宮に下り、神に仕える未婚の内親王か女王である。天皇の崩御や大尉、斎宮の近親者の死去で「退下(たいげ:任を終えること)」となり、都に戻ることが出来る。長く務めた人もいれば、短期間で役を終えた人もいる。中には斎宮のまま薨去する例もあった。退下後も独身を貫くことが多かったが、入内したり降嫁したりする例もあった。
『枕草子』に「病は胸。あしのけ。物の怪」とある。胸は風邪や肺炎、あしのけは脚気。物の怪は生霊や死霊が祟ることである。物の怪が原因と見なされた場合はもちろん、風邪などの場合も加持祈祷が行われた。薬もなくはなかったのだろうが、祈祷に頼っていた部分は大きいようだ。
平安時代の暮らしのあれこれが具体的に想像できて楽しい1冊。
ともあれ、大河で注目を浴びたこともあり、紫式部・源氏物語を取り上げた行事や出版物も目白押しだ。
本書もそうした1つかと思えば、著者が執筆を始めたのは、大河で紫式部を取り上げると発表されるより前であったとのこと。意図せず、タイムリーな著作となった。
著者は高校時代に幾度も賀茂祭(葵祭)を見物したことをきっかけに古典の世界に魅かれ、長年、研究を重ねてきた。服飾文化を主に専攻されているようだが、本書では広く、女性たちのライフスタイルについて、わかりやすくまとめられている。『源氏物語』や『枕草子』からの数多くの例が引かれている。
内容は:
I 幼き日々
II 見目麗しい姫君となる
III 素敵な女君となるために研鑽を積む
IV 夢見る結婚
V 天皇の后となる
VI 日々の暮らしの楽しみ
VII キャリアウーマンを目指す
VIII 神に仕える内親王と女王
IX 平安女子の終活
摂関政治の時代である。上級貴族の家での女児の誕生は、要職に就く夢を叶える第一歩と捉えられた。その子が天皇の后となり、皇子を産めば、外祖父として摂政・関白などとして、政治の実権を握ることが出来るのだ(これに対して、天皇家では男児の誕生が望まれた)。
子が生まれると、節目節目で祝いの行事や健やかな成長を願う儀式が行われた。
女児は見目麗しいことも大切だったが、教養もつけなければならなかった。当時は通い婚。男性はこれはと思う女性に、和歌をしたためた文を贈る。これにすぐさま返事をするには、まず字がきれいでなければならないし、「引き出し」を増やすために優れた和歌を数多く知っていなければならない。『古今和歌集』をすべて暗記するようにと娘に諭した貴族もいるというから半端ではない。全20巻、千首以上もあるのだ。しかし、そうして優れた和歌を詠めれば、よりよい相手と巡り合うことができるというのだから、努力も無駄ではなかったということか。
さらには琴や琵琶などの楽器が演奏できることも重要ポイント。女性たちは、人知れず、厳しい修練を積んだことだろう。
当時のマナーの1つとして、成人女性となったら親しい間柄でも男性には顔を見せないというものがある。ドラマだとこのあたりを厳しく守ると話が進めにくいということか、あけっぴろげに対面していたりしているが、当時は御簾や几帳で間を隔てるのが原則。これらがないときは扇で顔を隠す。扇はただの小道具的なものではなく、実用品だったのだろう。
平安ファッションといえば「十二単」や「重色目(かさねのいろめ)」。袴・単・五衣・打衣・表着・唐衣・裳といった装束を切るのだが、その際、色合わせが非常に大切である。平安中期、染色できる中間色が爆発的に増え、季節の草花の名がつけられた。重色目は、異なる色の装束を組み合わせて生まれるが、四季の区別があり、季節外れのものは容認されなかった。どんなに好きな色でも、例えば春のものとされる紅梅の衣装を秋に着ることは出来ない。色の重ね方にはセンスが現れる。色彩感覚を磨くことが非常に重要だった。
『源氏物語』では、紫の上や花散里が裁縫や染物を得意としたとされている。
妻の役割の1つとして、夫の衣装を整えることがある。裁縫や染物が上手であることは大きな長所である。上級貴族ともなると、織物所や染殿、縫物所、糸所などを自邸に備え、女主人の統括の元、さまざまな衣装を整えていたというからすごい。それだけ時宜にかなった装束を用意することは大変なことだったということだろう。
なかなか興味深いのは、斎宮が経る儀式や生活、そして斎宮を退いた後のことである。斎宮は伊勢神宮に下り、神に仕える未婚の内親王か女王である。天皇の崩御や大尉、斎宮の近親者の死去で「退下(たいげ:任を終えること)」となり、都に戻ることが出来る。長く務めた人もいれば、短期間で役を終えた人もいる。中には斎宮のまま薨去する例もあった。退下後も独身を貫くことが多かったが、入内したり降嫁したりする例もあった。
『枕草子』に「病は胸。あしのけ。物の怪」とある。胸は風邪や肺炎、あしのけは脚気。物の怪は生霊や死霊が祟ることである。物の怪が原因と見なされた場合はもちろん、風邪などの場合も加持祈祷が行われた。薬もなくはなかったのだろうが、祈祷に頼っていた部分は大きいようだ。
平安時代の暮らしのあれこれが具体的に想像できて楽しい1冊。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:春秋社
- ページ数:0
- ISBN:9784393482308
- 発売日:2023年11月15日
- 価格:1980円
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