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ぱるころ
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疎開先に待っていた、大きくて真っ暗な「トンネルの森」。1945年、小学四年生のイコは何を見てどんなふうに感じたのか。
『魔女の宅急便』の原作者 角野栄子の自伝的物語。
1935年、東京の深川に生まれた西田イコ。5歳のときに母を亡くし、本郷にある祖母 タカの家で暮らしていた。戦況が悪化する中、父 セイゾウが再婚。ほどなく出征したが、病気のため兵役を外れて部品工場に徴用される。

都市部では田舎への疎開が始まり、祖母は長男夫婦を頼って三鷹へ、イコは継母の光子とともに山川村へ疎開。疎開先でイコを待っていたのは、大きくて真っ暗な、トンネルのような森だった。そこを一人で通らなければ学校へは行けない。恐がるイコに父は「森と仲良しになっちゃえば恐くない」と教える。

森には、かつて脱走兵が逃げ込んだという噂があった。一人ぼっちのイコは、森の中で人の気配を感じる。父のいる東京に戻りたいと願うイコを引き止めたのは、謎に包まれた脱走兵の影だった。


抗うことのできない大きな力というのは、そっと忍び寄ってくるものだ。
『ついこの間まで普通のことだったのに、こんなに変わってしまうなんて。
でも、あら、どうしてこうなったの?』
イコの周りでは「当たり前」が一つずつ崩れ始め、三鷹の祖母は空襲で命を落とした。

ラジオのニュースを聴けば、「火災生じるも、損害極めて軽微なり」…
『沢山の人が死んでいるのに、おばあちゃんも死んだのに、損害は少ないの?本当だろうか。』
大人たちは誰も答えてくれない。


長い長い戦争は、イコの大好きなものを次々と奪って、ようやく終わりを迎える。イコの我慢が空に届いたかのような、優しく温かなラストだ。

「イコ、戦争が終わって本当に良かったね。」そう語りかけながら、気づけば私は1945年のトンネルをくぐり抜けていた。

幼い頃、心配事があるときや不安な気持ちになったとき、子供なりに必死で考えていることがあった。大人には想像もつかないほどの強い意志を、子供は持っている。
トンネルの森はイコにとって「戦争」を象徴する存在だ。しかしそれだけに留まらず、戦争を知らない世代と物語とをつなぐものであり、読む人それぞれの記憶の中にある「あの頃」ともつながっているような気がした。


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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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この書評へのコメント

  1. hacker2024-04-08 08:34

    これは、良さそうな本ですねぇ~。私のツンドク山脈に入れておきます。

  2. ぱるころ2024-04-08 12:18

    hackerさん、コメントありがとうございます。
    戦争体験にとどまらず、子供の視点で感じたままを描いているところが、角野栄子の世界だなぁと思いました。
    ぜひ読んでみてください^ ^

  3. hacker2024-04-08 13:27

    は~い、ツンドク山脈の状況と待ち行列次第ですが、来月には読むようにします!

  4. No Image

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