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ゆうちゃん
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巨大なウナギの罠の中にその持主である大地主の撲殺された死体があった。ウナギの罠には南京錠がかかり、それは交換されたばかりで鍵は死体のポケットにあった。秀逸な密室殺人もの。
hackerさんの書評を読んで手にした本です。図書館で入手するまで時間を要し、その後、何人かの方が書評を上げていらっしゃいました。良い本のご紹介ありがとうございます。

1960年代のスウェーデンを舞台にしたミステリ。著者はあまり日本で知られていないようだが、本格ものを得意とするようだ。
ブルーノ・フレドネルはボーラリードに住む50代の大地主。農場、広大な土地や森を所有。更に10キロ先のニッサフォシュ集落を流れるニッサン川に築かれた、ウナギの罠を所有している。ラッセ、マグヌス兄弟と母イーダから成るマグヌソン家にも土地を貸しているが、マグヌソン家は地代を滞納している。フレドネルの屋敷は元々ルンディーン老姉妹の兄シクステンの屋敷の一部だったがシクステンの死後、姉妹はフレドネルのお情けで向かいの家に住まわせてもらっている状態。シクステンの娘で姉妹の姪でもあるエイヴォルは20代の若い娘だが、フレドネルと公然と交際をして叔母たちを当惑させている。エイヴォルは元々マグヌスの恋人であったし、フレドネルはそれ以前に地区の小学校の先生であるシャネット・ロースルンドと交際していた。シャネットの父、ローランドは園芸家で花屋を経営しているが、温室の実験に凝り、それに金をかけ過ぎていることを家族に知られることを怖れている。店は、母ヴィクトリアとシャネットの次妹のイヴォンヌ、弟シャックに任せているが、シャックはエイヴォルに御執心で毎日花を贈るも相手にされない。
冒頭はラッセが久々にボーラリードに帰省する場面から。マグヌスは兄のために湖に延縄の漁を仕掛けるが、湖でウナギなど獲れた試しがないことを知っている。ラッセとマグヌスは遠くで地主のフレドネルが葦の群生に入り、出て来て車で去るのを見かける。マグヌスが葦に漕ぎ入れるとそこには、この町の牧師の弟で水陸学の修士セーレンがいた。事件はその晩に起こる。ウナギの罠の側には発電所があり、滝を管理するベックマン家の夫人ウッラは、近くの都市ジスラヴェードで友達と飲み過ぎて帰宅が10時を回ってしまった。満月が雲に隠れると真っ暗になる晩だったが、家の近くで彼女を懐中電灯で照らした男は、フレドネルだった。彼は彼女を脅かすつもりではなかった、という口ぶりだった。その深夜、午前2時頃に眠れぬウッラは、滝の近くで懐中電灯がちらつくのを見た。夫で管理人であるエーミルを起こして見に行かせるとウナギの罠の中にフレドネルの撲殺死体と凶器らしい鉄の棒があった。エーミルは警察を呼んだがドゥレル主任警部とバルデル警部補が到着した頃には土砂降りの雨で捜査は翌朝に持ち越された。
ウナギの罠は、川に面したところに開閉可能な取水口がある、縦横2m、奥行き3mの巨大な棺桶のようなものだった。上部に50cm四方の蓋があり、そこには10cm四方ののぞき窓があるが、蓋には南京錠がかかっている。被害者のポケットにその鍵があり一見密室殺人のように見えるのだが、マグヌスが数年前にフレドネルから予備の鍵を預かっていることがわかった。マグヌスは恋人を取られたという動機もあり、アリバイもあやふやになってゆき、とても怪しい人物に見えてくるし、予備の鍵の在り処を知っている人も容疑者となる。だが、捜査が進むと、フレドネルは殺された当日に南京錠を新しいものを交換し、しかも新しい南京錠の予備の鍵は叩き潰してしまっていることがわかった。これではマグヌスの鍵ではウナギの罠の中に入れない。ウナギの罠の中にある死体のポケットにその唯一の鍵があるにも関わらず、その鍵で南京錠が閉められている。完全な密室殺人でドゥレルの捜査は行き詰まる。動機の点でも被害者は人の恨みを買う人物であり、マグヌソン家のみならず、フレドネルから借金のあることがわかったローランド、彼に捨てられたシャネットなどロースルンド家にも容疑者が浮かぶ。地区の牧師とはエイヴォルとの結婚をめぐり口喧嘩もしていた。
そもそも、被害者はなぜウナギの罠の中で死んでいたのか?真夜中にそこに何をしに行ったのか?南京錠も交換されているし、盗んだらしいウナギを盗人が「保管」している生け簀も湖の葦の群生の中で見つかった。ドゥレルは、ウナギ泥棒を現行犯で捕まえに行ったのだろうか、と想像するのだが、何故、深夜のその時間にウナギ泥棒が忍び込むと知ったのか?誰かに唆されたのか?と疑問がわいてくる。

脱線も無い訳ではないのだが、面白い密室トリックの推理小説になっている。証拠が全部提示される本格ものでもあり、探偵役のドゥレル主任警部の思考過程も丁寧に描かれている。種明かしを読んだ時にはそう言う手があったか、と思ったが意表をつく設定である。凝ったトリックであり、犯人が誰かと言うよりは、どんな手段で密室殺人を犯したか、に焦点があるように思える。
スウェーデンの作家が書いたものだが、ウナギを罠で仕掛けて獲ることが重要なテーマとなっており、その点で非常に日本人に馴染みやすい小説である。ウナギのヌルヌル感が小説にもよく表れており、被害者が発見された時には首には大きなウナギが巻き付いていたのだが、鑑識報告にもウナギの粘液が被害者の体から検出された、などと言う記述もある。こんな話が英訳、仏訳どこまで通用するのかな?と想像するとちょっとおかしい。スウェーデンのウナギ漁はスポーツだと解説にはあったが、北欧では魚類を食べる習慣があるはず。かば焼きはないだろうが、盗人が盗ったウナギをホテルに売っていたという話も書かれ、どんな食べ方をするのかも知ってみたいと思う。
日本人は何でもコンパクトにするのが得意。だがこちらのウナギの罠は、その巨大さから逆に北欧のお国柄を感じる。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1688 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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この書評へのコメント

  1. hacker2025-06-03 03:29

    読まれたのですね。この本は、私も好きですから、ゆうちゃんさんも気に入られたようなのは嬉しいです。

  2. ゆうちゃん2025-06-03 09:28

    良い本のご紹介ありがとうございました。読めてよかったです。
    図書館でも人気の作品になっているようです。

  3. No Image

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