ウロボロスさん
レビュアー:
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SF新人賞としての評価軸を超えて、これほどまでに「刺さるかどうか」だけを問うてくる投稿作は初めてです。
                 第11代SFマガジン編集長 溝口力丸
《2123年10月1日、九州の山奥の小さな家に1人住む、おしゃべりが大好きな「わたし」は、これまでの人生と家族について振り返るため、自己流で家族史を書き始める。それは約100年前、身体が永遠に老化しなくなる手術を受けるときに提案されたことだった。》
以上が出版社の紹介文で、これは、第11回ハヤカワSFコンテストの特別賞受賞作品でもあります。そして以下の文章は公募に投稿されてきた生原稿を読んだ直後の編集者のコメントです。
《まだ世に出せるかどうかもわかりませんけど、ちょっと信じられないような小説と出逢ってしまった。ぶっちぎりで今回のベスト。この書き方に挑んで成功させてしまうのはちょっと尋常ではない。こういう切実さを評価するために公募賞はあるのだと思う。SF新人賞としての評価軸を超えて、これほどまでに「刺さるかどうか」だけを問うてくる投稿作は初めてです。
第11代SFマガジン編集長 溝口力丸
この作品は口語文で、尚且つ平仮名文で多くが構成されているので、馴れるまでにやや時間を要しますが、馴れてしまえば最後まで読ませますが、やはり読むのが通常よりしんどかったです。正直、驚きました。このような手法として『アルジャーノンに花束を』を思いうかべますがそれともいささか違います。
1、2、3章からなる中篇小説で、1は、漢字と平仮名が不用意に混ざり合い、2では通常の文章スタイルとなり、ラストの章の3は、およそ5000文字を超える平仮名と、ときおり頻出するカタカナ文字だけで表示される文章に、ある懷かしさとともに読んでいると不覚にも涙が溢れてきて、しばらくは、止まらなかった。想像をこえる読書体験でした。
《ゆう合手じゅつでなく自さつそちでした。》
これに漢字を当てるとこうなります。
《融合手術でなく自殺措置でした。》
このような感じの文章スタイルがつづきます。
《……さんが死んだあと世界では陰ぼうろんをしんじたひとたちがいろいろなことをいってゆう合手じゅつをうけた人間は危けんかも(中略)ゆう合手じゅつは全しんフルはおかね的にもむりで(中略)部分的にマシン化するくらいならできるひとがふえて(中略)ゆう合手じゅつをうけたひとが凶あくな殺人じ件をおこして供じゅつで、自分が悪いわけじゃない。頭を機械に侵食されて、そいつが誤作動を、起こしたんだ。》
それぞれの読者の「あるある」「わかる」「刺さる」等が醸成するマインドに一直線に向けて放たれたコトバとブンタイが映画や音楽や将棋世界の「それぞれの好きなコト」に、向けて放たれ、その矢が見事に読者の心の的を射抜いて余りあるのです。
映画においては『ザ・ホエール』(原題:The Whale)の主演俳優のブレンダン・フレイザーの劇中のセリフ I need to know that I have done one thing right with my life「自分の人生で一つでも正しいことをしたと信じたい」が効果的に引用され、将棋世界においては、《得体のしれないものに対峙した時にどれ位まで積み重ねられるか……が個人的にはポイントかなと思っております。(中略)一パーセント一パーセント(中略)後退せずに一歩一歩確実に前に進んでいき……その方向性が合っているかどうかが重要だと思うんですけど(中略)一生懸命に進んで行きたい》という棋士永瀬拓矢の電王戦でのコンピューターソフトのSeleneとの対局での言葉が、Orangestarのオリジナル曲、アスノヨゾラ哨戒班が刺激的に挿入されている。
今から100年後の世界がどのように変容しているのか?家族とは?愛とは?生きるとは?死ぬとは?地球とは?のその答えは……?
読む人一人一人に「より良き人生とはなにか?」を根源的に問いかけているような気がしました。そして私のような映画『ザ・ホエール』や将棋世界やOrangestarの音楽を知らない人々をも、この作品世界は魅了するでしょう!
次回作に大いに期待できる新人作家さんです!
以上が出版社の紹介文で、これは、第11回ハヤカワSFコンテストの特別賞受賞作品でもあります。そして以下の文章は公募に投稿されてきた生原稿を読んだ直後の編集者のコメントです。
《まだ世に出せるかどうかもわかりませんけど、ちょっと信じられないような小説と出逢ってしまった。ぶっちぎりで今回のベスト。この書き方に挑んで成功させてしまうのはちょっと尋常ではない。こういう切実さを評価するために公募賞はあるのだと思う。SF新人賞としての評価軸を超えて、これほどまでに「刺さるかどうか」だけを問うてくる投稿作は初めてです。
第11代SFマガジン編集長 溝口力丸
この作品は口語文で、尚且つ平仮名文で多くが構成されているので、馴れるまでにやや時間を要しますが、馴れてしまえば最後まで読ませますが、やはり読むのが通常よりしんどかったです。正直、驚きました。このような手法として『アルジャーノンに花束を』を思いうかべますがそれともいささか違います。
1、2、3章からなる中篇小説で、1は、漢字と平仮名が不用意に混ざり合い、2では通常の文章スタイルとなり、ラストの章の3は、およそ5000文字を超える平仮名と、ときおり頻出するカタカナ文字だけで表示される文章に、ある懷かしさとともに読んでいると不覚にも涙が溢れてきて、しばらくは、止まらなかった。想像をこえる読書体験でした。
《ゆう合手じゅつでなく自さつそちでした。》
これに漢字を当てるとこうなります。
《融合手術でなく自殺措置でした。》
このような感じの文章スタイルがつづきます。
《……さんが死んだあと世界では陰ぼうろんをしんじたひとたちがいろいろなことをいってゆう合手じゅつをうけた人間は危けんかも(中略)ゆう合手じゅつは全しんフルはおかね的にもむりで(中略)部分的にマシン化するくらいならできるひとがふえて(中略)ゆう合手じゅつをうけたひとが凶あくな殺人じ件をおこして供じゅつで、自分が悪いわけじゃない。頭を機械に侵食されて、そいつが誤作動を、起こしたんだ。》
それぞれの読者の「あるある」「わかる」「刺さる」等が醸成するマインドに一直線に向けて放たれたコトバとブンタイが映画や音楽や将棋世界の「それぞれの好きなコト」に、向けて放たれ、その矢が見事に読者の心の的を射抜いて余りあるのです。
映画においては『ザ・ホエール』(原題:The Whale)の主演俳優のブレンダン・フレイザーの劇中のセリフ I need to know that I have done one thing right with my life「自分の人生で一つでも正しいことをしたと信じたい」が効果的に引用され、将棋世界においては、《得体のしれないものに対峙した時にどれ位まで積み重ねられるか……が個人的にはポイントかなと思っております。(中略)一パーセント一パーセント(中略)後退せずに一歩一歩確実に前に進んでいき……その方向性が合っているかどうかが重要だと思うんですけど(中略)一生懸命に進んで行きたい》という棋士永瀬拓矢の電王戦でのコンピューターソフトのSeleneとの対局での言葉が、Orangestarのオリジナル曲、アスノヨゾラ哨戒班が刺激的に挿入されている。
今から100年後の世界がどのように変容しているのか?家族とは?愛とは?生きるとは?死ぬとは?地球とは?のその答えは……?
読む人一人一人に「より良き人生とはなにか?」を根源的に問いかけているような気がしました。そして私のような映画『ザ・ホエール』や将棋世界やOrangestarの音楽を知らない人々をも、この作品世界は魅了するでしょう!
次回作に大いに期待できる新人作家さんです!
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これまで読んできた作家。村上春樹、丸山健二、中上健次、笠井潔、桐山襲、五木寛之、大江健三郎、松本清張、伊坂幸太郎
堀江敏幸、多和田葉子、中原清一郎、等々...です。
音楽は、洋楽、邦楽問わず70年代、80年代を中心に聴いてます。初めて行ったLive Concertが1979年のエリック・クラプトンです。好きなアーティストはボブ・ディランです。
格闘技(UFC)とソフトバンク・ホークス(野球)の大ファンです。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152103147
- 発売日:2024年03月06日
- 価格:1430円
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