DBさん
レビュアー:
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暗黒の世紀を招いたものの本
ローマ帝国がキリスト教化していく中で起こった出来事の真実に迫ります。
コンスタンティヌス一世がキリスト教を公認したのが313年のこと、それまでも帝国中に広がっていたキリスト教が、迫害される側から迫害する側へ回った瞬間だ。
著者のギャスリーン・ニクシーは元修道士と元修道女の娘で、西洋古典学を学んだジャーナリストだ。
著者がクローズアップしたのはアテナイのアカデメイアが誇る歴史の系譜「黄金の鎖」の最後の輪となった哲学者ダマスキオスだ。
彼が旅した足跡を巡る紀行文を書くのはシリア情勢で不可能になってしまったので、ギリシア・ローマ文化の粋ともいえる哲学が破壊されつくされる様子を描いた本書を上梓したそうです。
なんなく仏教徒の人間には興味深い内容だが、キリスト教を今でも信奉する人には心が騒ぐ内容でもあるだろう。
キリスト教が公認され勢力を広げていった時代は、裕福だった暮らしを捨ててエジプトの砂漠で隠者となった聖アントニウスの生きていた時代に重なる。
ダリの絵にもある通り、砂漠にいるアントニウスのもとへ悪魔が様々な肉欲に訴える誘惑をしに訪れる。
誘惑となるのは古代ローマ帝国で異教徒と呼ばれる富裕層が享受していた楽しみであり、それに背を向ける生き方こそが真のキリスト教徒と呼ばれるという価値観の違いを端的に示している。
キリスト教徒が自分自身をそのような境遇に置く分には個人の自由を認める社会だっただけに、特に問題なかっただろう。
だが彼らはそれをすべての人がしなければならい義務だと信じ、神の名の元に他宗教の神殿や他人の家に入り込み、異教の神々の像や本、豪華な品物を破壊しつくしたのだ。
神へ祈りを捧げることを至上にして唯一の人間の行いだと信じる無学な群集にとって、哲学や文学、科学は異教の神々と同じく存在してはならないものだった。
テロリストと化したキリスト教徒たちは、それらの本を焼き、神像を焼き、人間を焼く。
アレクサンドリアでもアテナイでも、哲学の火はキリスト教徒によって消されようとしていた。
暴行され虐殺されたアレクサンドリアのヒュパティアの話は有名だが、529年ユスティニアヌスの法令により唯一神への信仰以外はすべて禁じられ、ダマスキオスもまたアテナイを追われ明日をも知れぬ放浪の旅へと追い立てられていく。
暗黒の時代がここに始まるのだが、その前から徐々に哲学や文学の輝かしさに陰りが差していく様子を綿密に描いた本だった。
もしもアテナイとアレクサンドリアの火が消されることがなかったら、科学はどれだけ進歩したのだろうかと虚しくも考えさせられた。
コンスタンティヌス一世がキリスト教を公認したのが313年のこと、それまでも帝国中に広がっていたキリスト教が、迫害される側から迫害する側へ回った瞬間だ。
著者のギャスリーン・ニクシーは元修道士と元修道女の娘で、西洋古典学を学んだジャーナリストだ。
著者がクローズアップしたのはアテナイのアカデメイアが誇る歴史の系譜「黄金の鎖」の最後の輪となった哲学者ダマスキオスだ。
彼が旅した足跡を巡る紀行文を書くのはシリア情勢で不可能になってしまったので、ギリシア・ローマ文化の粋ともいえる哲学が破壊されつくされる様子を描いた本書を上梓したそうです。
なんなく仏教徒の人間には興味深い内容だが、キリスト教を今でも信奉する人には心が騒ぐ内容でもあるだろう。
キリスト教が公認され勢力を広げていった時代は、裕福だった暮らしを捨ててエジプトの砂漠で隠者となった聖アントニウスの生きていた時代に重なる。
ダリの絵にもある通り、砂漠にいるアントニウスのもとへ悪魔が様々な肉欲に訴える誘惑をしに訪れる。
誘惑となるのは古代ローマ帝国で異教徒と呼ばれる富裕層が享受していた楽しみであり、それに背を向ける生き方こそが真のキリスト教徒と呼ばれるという価値観の違いを端的に示している。
キリスト教徒が自分自身をそのような境遇に置く分には個人の自由を認める社会だっただけに、特に問題なかっただろう。
だが彼らはそれをすべての人がしなければならい義務だと信じ、神の名の元に他宗教の神殿や他人の家に入り込み、異教の神々の像や本、豪華な品物を破壊しつくしたのだ。
神へ祈りを捧げることを至上にして唯一の人間の行いだと信じる無学な群集にとって、哲学や文学、科学は異教の神々と同じく存在してはならないものだった。
テロリストと化したキリスト教徒たちは、それらの本を焼き、神像を焼き、人間を焼く。
アレクサンドリアでもアテナイでも、哲学の火はキリスト教徒によって消されようとしていた。
暴行され虐殺されたアレクサンドリアのヒュパティアの話は有名だが、529年ユスティニアヌスの法令により唯一神への信仰以外はすべて禁じられ、ダマスキオスもまたアテナイを追われ明日をも知れぬ放浪の旅へと追い立てられていく。
暗黒の時代がここに始まるのだが、その前から徐々に哲学や文学の輝かしさに陰りが差していく様子を綿密に描いた本だった。
もしもアテナイとアレクサンドリアの火が消されることがなかったら、科学はどれだけ進歩したのだろうかと虚しくも考えさせられた。
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好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。
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- 出版社:みすず書房
- ページ数:0
- ISBN:9784622096207
- 発売日:2023年07月20日
- 価格:4620円
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