ぽんきちさん
レビュアー:
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大正から第二次大戦後まで。困難な時代を貫くシスターフッドの物語。
ここに2人の女がいる。
1人は千代。地味で目立たない。名前からしても平凡。醜くはないが、美しくもなく、引っ掛かりがないせいか、他人の印象に残りにくい。どこか人の気持ちに鈍いところもあり、悪気はないのだが、とにかくぱっとしない。
もう1人はお初。粋でしゃきしゃきしており、何でもてきぱきとこなす。人のよいところを伸ばすことにも長けていて、教え上手。以前は芸者として働いていたという。
このあまり似通ったところのない2人が出会い、大正から第二次大戦後までを過ごし、強く温かな絆で結ばれていく、そんな物語である。
第1章は「再会」と題される。すでに戦後である。
盲目の初衣は住み込みの女中を探している。その家を千代が訪れる。表題からしても、2人は旧知の仲のようなのだが、千代は自分の正体を明かさずに女中として働こうとしている。かつて2人の主従関係は逆転していた。千代が若奥様で初衣、つまりお初が女中。
わけあって離れ離れになったが、千代はどうしても再び、お初と暮らしたかったのだ。
千代は昔とは声が変わってしまっており、盲目のお初はどうやら千代が自分の知っている千代だとは気づいていないようである。
では2人はどんな風に知り合い、その後、どんな人生を送るのか。それが2章以降で語られる。
出版社紹介には「女性たちの大河小説」とあるが、その言葉から想像するほど大上段に振りかぶったお話ではない。
2人をつなぐのは台所仕事であり、掃除であり、家の中のこまごまとした雑事である。
若奥様の千代は、夫とはあまりうまくいっていないが、お初や、もう1人の女中であるお芳と家の切り盛りをするのは楽しく、日々を丁寧に送っている。実家でも一通りの家事はしてきたが、お初が作る洒落た料理は目新しく、目の前が開けるようだった。
千代が夫とうまくいかないのには理由があり、それは追々明かされる。ちょっとびっくりするような設定だが、まぁそういうこともあるのかもしれない。
一方、何でも器用にこなしているかに見えるお初にも秘密はあった。
お互いの心の傷を明かした2人は、家族とも友人とも言えないが、そのどちらでもあるかのような間柄となっていく。そしてともに手を取り合って暮らしてきたのだ。
あの日が来るまでは。
千代はヒロインとしては地味なのだが、とはいえ、一見愚鈍にも見えるその生き方には芯の通ったところがある。
人生、思い通りにいかないことはままあるが、結局は置かれたところで、地道にやっていくしかないのかもしれない。
絵に描いたような完全無欠のヒロインではないからこそ、いつの間にか千代を応援したくなってくる。同時に、どこか読み手側もそっと励まされるような感触がある。
主役の2人に加えて、脇役の描写も多様で楽しい。
どこか冷淡な母、気のいいお芳、何かと嫌味を言いに来るタケ、捉えどころのない夫の茂一郎、瀟洒な舅・高助。
中で印象に残る名脇役は飼い猫、トラオである。「虎雄」とは名ばかりで飛び切り臆病、見た目は狸。千代が嫁にいってしばらくは、千代に怯えて姿を見せなかったほどの臆病者だが、そのうちにこっそり傍にいつき、物語の重要なアクセントになっていく。
派手さはないが、温かな余韻を残す物語である。
1人は千代。地味で目立たない。名前からしても平凡。醜くはないが、美しくもなく、引っ掛かりがないせいか、他人の印象に残りにくい。どこか人の気持ちに鈍いところもあり、悪気はないのだが、とにかくぱっとしない。
もう1人はお初。粋でしゃきしゃきしており、何でもてきぱきとこなす。人のよいところを伸ばすことにも長けていて、教え上手。以前は芸者として働いていたという。
このあまり似通ったところのない2人が出会い、大正から第二次大戦後までを過ごし、強く温かな絆で結ばれていく、そんな物語である。
第1章は「再会」と題される。すでに戦後である。
盲目の初衣は住み込みの女中を探している。その家を千代が訪れる。表題からしても、2人は旧知の仲のようなのだが、千代は自分の正体を明かさずに女中として働こうとしている。かつて2人の主従関係は逆転していた。千代が若奥様で初衣、つまりお初が女中。
わけあって離れ離れになったが、千代はどうしても再び、お初と暮らしたかったのだ。
千代は昔とは声が変わってしまっており、盲目のお初はどうやら千代が自分の知っている千代だとは気づいていないようである。
では2人はどんな風に知り合い、その後、どんな人生を送るのか。それが2章以降で語られる。
出版社紹介には「女性たちの大河小説」とあるが、その言葉から想像するほど大上段に振りかぶったお話ではない。
2人をつなぐのは台所仕事であり、掃除であり、家の中のこまごまとした雑事である。
若奥様の千代は、夫とはあまりうまくいっていないが、お初や、もう1人の女中であるお芳と家の切り盛りをするのは楽しく、日々を丁寧に送っている。実家でも一通りの家事はしてきたが、お初が作る洒落た料理は目新しく、目の前が開けるようだった。
千代が夫とうまくいかないのには理由があり、それは追々明かされる。ちょっとびっくりするような設定だが、まぁそういうこともあるのかもしれない。
一方、何でも器用にこなしているかに見えるお初にも秘密はあった。
お互いの心の傷を明かした2人は、家族とも友人とも言えないが、そのどちらでもあるかのような間柄となっていく。そしてともに手を取り合って暮らしてきたのだ。
あの日が来るまでは。
千代はヒロインとしては地味なのだが、とはいえ、一見愚鈍にも見えるその生き方には芯の通ったところがある。
人生、思い通りにいかないことはままあるが、結局は置かれたところで、地道にやっていくしかないのかもしれない。
絵に描いたような完全無欠のヒロインではないからこそ、いつの間にか千代を応援したくなってくる。同時に、どこか読み手側もそっと励まされるような感触がある。
主役の2人に加えて、脇役の描写も多様で楽しい。
どこか冷淡な母、気のいいお芳、何かと嫌味を言いに来るタケ、捉えどころのない夫の茂一郎、瀟洒な舅・高助。
中で印象に残る名脇役は飼い猫、トラオである。「虎雄」とは名ばかりで飛び切り臆病、見た目は狸。千代が嫁にいってしばらくは、千代に怯えて姿を見せなかったほどの臆病者だが、そのうちにこっそり傍にいつき、物語の重要なアクセントになっていく。
派手さはないが、温かな余韻を残す物語である。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:0
- ISBN:9784163917511
- 発売日:2023年09月25日
- 価格:1980円
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