そうきゅうどうさん
レビュアー:
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舞台を北海道へ移しての『奇譚蒐集録』シリーズの第2巻。このシリーズは「伝奇小説」ではなく「伝奇ミステリ」だ。その理由は…
大正3年、東京帝大理学部生物学教室講師、南辺田廣章(みなべだ こうしょう)と、彼の護衛も兼ねた書生の山内真汐(ましお)は、今度は北海道へと赴く。アイヌでも和人でもなく、アイヌに擬態して各地を移動しながら隠れ住むという集団、流れ歩く村(ヤイケシテコタン)に伝わる風変わりな婚礼の儀式について調査するためである。
その廣章たちの話と並行して、ある種の予知能力を持ち、村の人たちから「神に聴く者(イコンヌプ)」と呼ばれる少女、チシの話と、函館の大手の廻船問屋、大塊屋(おおがいや)の末娘で、奉公人の男(しかもアイヌ)と駆け落ちしようとしている比佐乃の話が語られ、この3つの話が途中で重なることで物語の全体像が明らかになる。こういう仕掛けの「北の大地のイコンヌプ」は、清水朔(はじめ)の『奇譚蒐集録』シリーズの第2巻に当たる。
廣章の奇譚蒐集は、もちろん半分は純粋に学問的興味によるものだが、半分は違う。政府の薩摩閥からの密命を受け、奇譚の中に人鬼(ひとおに)と呼ばれるものの痕跡を探り、それを探し出して速やかに処分するためである(余談だが、タイトルの「しゅうしゅう」に「収集」ではなく「蒐集」が使われているのも、文字の中に「鬼」が入っているからか)。
普段の廣章は甘いものに目がなく、大食漢で酒豪。興味深い奇譚や習俗に出合うと周囲のことはまるでお構いなしで、真汐が精一杯フォローしなければならなくなる困った人だが、いざ事が起こると、いつもの「真汐、真汐」という呼び方が一変する。
廣章たちの目的は人鬼を始末することだ。それだけの話なら、これは「伝奇小説」と言えるだろう。だが第1巻「弔い少女の鎮魂歌」もそうだったように、これは廣章たちとともに、誰が人鬼かだけでなく、その人鬼の背後にいるのは誰かまで推理する物語。ゆえにこれは「伝奇ミステリ」なのだ。本当に恐ろしいのは人鬼ではなく、その背後にいる「人」だ。人外の化け物である人鬼より、人の方が遙かに人外の化け物であるという皮肉──この『奇譚蒐集録』が描くのは、まさにそこなのである。
その廣章たちの話と並行して、ある種の予知能力を持ち、村の人たちから「神に聴く者(イコンヌプ)」と呼ばれる少女、チシの話と、函館の大手の廻船問屋、大塊屋(おおがいや)の末娘で、奉公人の男(しかもアイヌ)と駆け落ちしようとしている比佐乃の話が語られ、この3つの話が途中で重なることで物語の全体像が明らかになる。こういう仕掛けの「北の大地のイコンヌプ」は、清水朔(はじめ)の『奇譚蒐集録』シリーズの第2巻に当たる。
廣章の奇譚蒐集は、もちろん半分は純粋に学問的興味によるものだが、半分は違う。政府の薩摩閥からの密命を受け、奇譚の中に人鬼(ひとおに)と呼ばれるものの痕跡を探り、それを探し出して速やかに処分するためである(余談だが、タイトルの「しゅうしゅう」に「収集」ではなく「蒐集」が使われているのも、文字の中に「鬼」が入っているからか)。
普段の廣章は甘いものに目がなく、大食漢で酒豪。興味深い奇譚や習俗に出合うと周囲のことはまるでお構いなしで、真汐が精一杯フォローしなければならなくなる困った人だが、いざ事が起こると、いつもの「真汐、真汐」という呼び方が一変する。
やれますか、山内。そして、その言葉を受けた真汐は
ひとたび下命あれば、我らは粛々と剣を掉(ふる)う。其(そ)が為の生(しょう)なりと思い定め、
──やりますと答えるのだ。
廣章たちの目的は人鬼を始末することだ。それだけの話なら、これは「伝奇小説」と言えるだろう。だが第1巻「弔い少女の鎮魂歌」もそうだったように、これは廣章たちとともに、誰が人鬼かだけでなく、その人鬼の背後にいるのは誰かまで推理する物語。ゆえにこれは「伝奇ミステリ」なのだ。本当に恐ろしいのは人鬼ではなく、その背後にいる「人」だ。人外の化け物である人鬼より、人の方が遙かに人外の化け物であるという皮肉──この『奇譚蒐集録』が描くのは、まさにそこなのである。
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「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp
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- 出版社:新潮社
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