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ソネアキラ
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テクスト(text)のテクスチャー (texture)―ボルヘス織

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

『シェイクスピアの記憶』 J.L.ボルヘス著  内田兆史訳  鼓直訳を読む。

落語の大師匠が晩年、高座に立つだけで贔屓筋はありがたいと思うだろう。たとえ噺が、自身のなぞりであっても、ありがたいと思うだろう。そんなボルヘスの「最晩年の短篇集」が、ひっそりと出ていた。というか気づかなかっただけ。

見事なまでに、どこを読んでも、金太郎飴の如く、ボルヘス、ボルヘス。もひとつ、ボルヘス。
4篇の短篇集。

『一九八三年八月二十五日』
その日は「ボルヘスが84歳の誕生日を迎えた翌日」。「前日に61歳を迎えたボルヘス」が、行きつけのホテルに行く。すると、宿帳に自分の名前が。部屋にいた84歳の自分は忌の際だった。ドッペルゲンガーといってよいのかどうか。自分ともう一人の年齢の異なる自分が出会う。おなじみの設定。でも、脳内では未来は無理だが、過去の自分といまの自分を対比している。「解説」で最愛の母の死がどれほど衝撃的だったかを知る。ふと、ロラン・バルトを思い出した。

『青い虎』
「ラホール大学で論理学の教師」をしている「私」。「ガンジス河のデルタ地帯で青い虎が発見された」ニュースを読んで、休暇を利用してその地を訪ねる。青い虎が出たと聞きつけて村の人に案内してもらう。見つからず。どうやら、それはガセネタで期待を持たせて延泊してもらい、村に金を落とすのが狙い。上ることが禁忌になっている山に一人で登って探索するが、見つからず。山頂にある亀裂で青い丸い小石を拾う。それは、「子を産む」石だった。石はどんどん増殖する。


『パラケルススの薔薇』
「老錬金術師パラケルスス」の元へ若い男がやってきた。弟子志願だった。ありったけの金貨を師に差し出す。入門・指南料か。錬金術を習得して「「賢者の石」に達する道」をわきまえたいと。男はパラケルススが焼いた薔薇の灰から薔薇を蘇生させることができるというその術を見せてもらいたいと懇願する。あえて失敗を見せる。当然、男は師をイカさま師と見なす。男が去ってから、呪文を呟くと。

『シェイクスピアの記憶』
「半ば盲目」となった「名誉教授ヘルマン・ゼルゲル」。専門はシェイクスピアなどの英文学。どれだけシェイクスピアに造詣が深くなっても、またもし彼の記憶が再生でできたとしても、結局、自分はシェイクスピアにはなれない。なれはしないが、書くことはできる。さまざまな文学、音楽、芸術などの引用が織りなすブッキッシュな作品。

ぼくはなんとかの一つ覚えで素晴らしい短篇は、素晴らしい盆栽に通じるものがあるといつも感じてしまう。言葉を刈り込んで、刈り込んで、しかし、そこには、深く、広い世界観や宇宙観、パースペクティブ観がある。訳者である 内田兆史の長い解説と解題は、参考になる。たとえば、後年、書き方を、わかりやすくしたとか。それは視力を失って口述筆記にしたからそうなのだが。
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ソネアキラ
ソネアキラ さん本が好き!1級(書評数:2196 件)

女子柔道選手ではありません。開店休業状態のフリーランスコピーライター。暴飲、暴食、暴読の非暴力主義者。東京ヤクルトスワローズファン。こちらでもささやかに囁いています。

twitter.com/sonenkofu

詩や小説らしきものはこちら。

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