ぱせりさん
レビュアー:
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「ああ、ウィリアム!」に籠るさまざまな思いが指すもの
『私の名前はルーシー・バートン』『何があってもおかしくない』に続く物語だけれど、独立した物語だから、この本だけ単発で読んでも大丈夫。
作家ルーシーは、二番目にして最愛の夫デイヴィッドを亡くして、一人で暮らしている。
ウィリアムは最初の夫で、彼と別れた後も(再婚したあとも)ほぼ親友みたいな間柄で、家族ぐるみでつきあっていた。
「ああ、ウィリアム」という言葉は、ルーシー一人称語りの物語の中で、何度も出てきた。その時々の「ああ……」には、その時なりのさまざまな思いが籠っている。感謝、友情であり、呆れたり辟易としたり、諦めであり、嘆きであり、共感であり……どの「ああ……』にも、その都度、軽い苛立ちと、それに伴う同情のようなものが混じっているように思う。
どの「ああ……」も、ウィリアムを語りながら、ウィリアム(や、彼の周りの人間たち)を語り、実は、ルーシー自身を振り返って語っているのだ。「ああ、ウィリアム!」は、「ああ、ルーシー!」の始まりなのだ。
ルーシーはひとり。そして、ウィリアムも三度目の妻が家を出た後ひとりになる。物語では、ともに老いを感じ始める歳に、二人一緒に旅に出るのだ。ある探し物をして。
ルーシーってどんな人なのだろう。徐々に徐々に細かく描写されていく彼女の生い立ちや今の在り方。だけど、細部がはっきりしてくればくるほど、実はルーシーという人がわからなくなってくる。(彼女とのつきあいも三冊目、というのに)
それは、この物語に出てくるほかの人の姿の反映でもあるのだけれど。
読めば読むほど、わからなくなってくるのだ。
だけど、変な言い方だけれど、わからなくなってくることが、一種の快感にもなってきている。
判らないことに対する安心、ともいえるかな。
そう、人って、いろいろな顔をもち、そんなに簡単になんでもわからないものだよ。自分のことだって。この先、どんなことが露わになるのだろう、それはどんな風に覆されるのだろう。それを知るのは、おもしろいことではないか。
おもしろいと思えるのは、特異な育ちをした彼女が、自分でも驚いているけれど、なぜか「人を愛せた」ということなのだ、と思う。
だから、ショッキングな出来事も起こるし、(読者としては)なんだか裏切られたような気持ちになったりもするのだけれど、そうであっても、やはり、あなたの話をもっと聞かせてよ、聞くのが楽しみだよ、と思うのだ。
作家ルーシーは、二番目にして最愛の夫デイヴィッドを亡くして、一人で暮らしている。
ウィリアムは最初の夫で、彼と別れた後も(再婚したあとも)ほぼ親友みたいな間柄で、家族ぐるみでつきあっていた。
「ああ、ウィリアム」という言葉は、ルーシー一人称語りの物語の中で、何度も出てきた。その時々の「ああ……」には、その時なりのさまざまな思いが籠っている。感謝、友情であり、呆れたり辟易としたり、諦めであり、嘆きであり、共感であり……どの「ああ……』にも、その都度、軽い苛立ちと、それに伴う同情のようなものが混じっているように思う。
どの「ああ……」も、ウィリアムを語りながら、ウィリアム(や、彼の周りの人間たち)を語り、実は、ルーシー自身を振り返って語っているのだ。「ああ、ウィリアム!」は、「ああ、ルーシー!」の始まりなのだ。
ルーシーはひとり。そして、ウィリアムも三度目の妻が家を出た後ひとりになる。物語では、ともに老いを感じ始める歳に、二人一緒に旅に出るのだ。ある探し物をして。
ルーシーってどんな人なのだろう。徐々に徐々に細かく描写されていく彼女の生い立ちや今の在り方。だけど、細部がはっきりしてくればくるほど、実はルーシーという人がわからなくなってくる。(彼女とのつきあいも三冊目、というのに)
それは、この物語に出てくるほかの人の姿の反映でもあるのだけれど。
読めば読むほど、わからなくなってくるのだ。
だけど、変な言い方だけれど、わからなくなってくることが、一種の快感にもなってきている。
判らないことに対する安心、ともいえるかな。
そう、人って、いろいろな顔をもち、そんなに簡単になんでもわからないものだよ。自分のことだって。この先、どんなことが露わになるのだろう、それはどんな風に覆されるのだろう。それを知るのは、おもしろいことではないか。
おもしろいと思えるのは、特異な育ちをした彼女が、自分でも驚いているけれど、なぜか「人を愛せた」ということなのだ、と思う。
だから、ショッキングな出来事も起こるし、(読者としては)なんだか裏切られたような気持ちになったりもするのだけれど、そうであっても、やはり、あなたの話をもっと聞かせてよ、聞くのが楽しみだよ、と思うのだ。
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いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
この書評へのコメント
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152102935
- 発売日:2023年12月05日
- 価格:2970円
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