ぱせりさん
レビュアー:
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「山道をゆっくり歩いていると、なつかしい人の言葉をふっと思い出すことがある」
「山道をゆっくり歩いていると、なつかしい人の言葉をふっと思い出すことがある」との一文から始まるエッセイ集。
おもに、モンブランの麓の町シャモニーを背景にして、著者は「なつかしい人」たちを振り返る。
それは、著者の半生のなかで出会った(そして去っていった)人であったり、アルピニスト、文学者や画家、谷間の修道士たち……人生の一部に、いろいろな形で山をもった人たちだ、と思う。
どの章もそれぞれに心に残る。どの章の中でも、山の清涼な空気を吸い込むような読書だった。
『セザンヌの山とミヨー家の庭』は、とりわけ忘れられない。
マダム・ミヨーは、著者がパリに留学していた頃の下宿の主。帰国後も続いた温かな交流。著者と出会う前の(文学者としての)マダム・ミヨーの足跡を追いかけ始めるのは、彼女が亡くなった後。一人の女性の人生、一人の女性のいくつもの表情が、セザンヌが描いたいくつものサント=ヴィクトワール山と重なっていく。
「おなじ山をずっとながめていると、山が変化してやまないことがわかり、魅せられたように、いっそう見つづける。山のすがたにはそれを見つづけてきた自分の時間も刻まれているような気がしてくる」
そして、最後に。長い時間が人知れず大切に抱えていた不思議な贈り物に、くらくらした。
『沈黙の修道院と黒い鳥』もよかった。
カトリックの最も厳格な修道院と呼ばれるシャトルーズの修道士たちの話。厳しい規律に縛られているように見える修道士たちが実は「かぎりなく自由であるように見えてきた」という一文は、何と印象的なことだったか。
『デュマの熊のステーキ』の、「文学作品とは、事実と記憶と虚構とから作られるのであろう」には、もう苦笑するしかない。
『シャモニーの裏山のフキ』、シャモニーで、フキノトウの天ぷらをごちそうしてくれたジャポニャール(シャモニーを愛する日本人)の笑顔も忘れてはいけない。
書きだすときりがない。
それでも書き並べていくと、共通するものに気がつく。(関わり方は人さまざまだけれど)山に関わる人々の幸福の純度の高さ、とでもいえばいいだろうか。
良い風が今、ここに吹いた。そんな感じの一瞬、一瞬は、なんて心地よいのだろう。
私はきっとこの後、何度もこの本を開くと思う。
「山を愛するひとが書いた文章を読むことは、そのひとの背中を見ながら黙っていっしょに山道を歩いてゆくことかもしれない」
おもに、モンブランの麓の町シャモニーを背景にして、著者は「なつかしい人」たちを振り返る。
それは、著者の半生のなかで出会った(そして去っていった)人であったり、アルピニスト、文学者や画家、谷間の修道士たち……人生の一部に、いろいろな形で山をもった人たちだ、と思う。
どの章もそれぞれに心に残る。どの章の中でも、山の清涼な空気を吸い込むような読書だった。
『セザンヌの山とミヨー家の庭』は、とりわけ忘れられない。
マダム・ミヨーは、著者がパリに留学していた頃の下宿の主。帰国後も続いた温かな交流。著者と出会う前の(文学者としての)マダム・ミヨーの足跡を追いかけ始めるのは、彼女が亡くなった後。一人の女性の人生、一人の女性のいくつもの表情が、セザンヌが描いたいくつものサント=ヴィクトワール山と重なっていく。
「おなじ山をずっとながめていると、山が変化してやまないことがわかり、魅せられたように、いっそう見つづける。山のすがたにはそれを見つづけてきた自分の時間も刻まれているような気がしてくる」
そして、最後に。長い時間が人知れず大切に抱えていた不思議な贈り物に、くらくらした。
『沈黙の修道院と黒い鳥』もよかった。
カトリックの最も厳格な修道院と呼ばれるシャトルーズの修道士たちの話。厳しい規律に縛られているように見える修道士たちが実は「かぎりなく自由であるように見えてきた」という一文は、何と印象的なことだったか。
『デュマの熊のステーキ』の、「文学作品とは、事実と記憶と虚構とから作られるのであろう」には、もう苦笑するしかない。
『シャモニーの裏山のフキ』、シャモニーで、フキノトウの天ぷらをごちそうしてくれたジャポニャール(シャモニーを愛する日本人)の笑顔も忘れてはいけない。
書きだすときりがない。
それでも書き並べていくと、共通するものに気がつく。(関わり方は人さまざまだけれど)山に関わる人々の幸福の純度の高さ、とでもいえばいいだろうか。
良い風が今、ここに吹いた。そんな感じの一瞬、一瞬は、なんて心地よいのだろう。
私はきっとこの後、何度もこの本を開くと思う。
「山を愛するひとが書いた文章を読むことは、そのひとの背中を見ながら黙っていっしょに山道を歩いてゆくことかもしれない」
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いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
この書評へのコメント
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- 出版社:ベルリブロ
- ページ数:0
- ISBN:9784991330506
- 発売日:2023年11月20日
- 価格:3777円
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