たけぞうさん
レビュアー:
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マタギの話。栄枯盛衰をドライに書く。
直木賞受賞作なので読みました。初めての作家さんです。非常に描写力が高く、グロテスクにすら思えるほど迫力がありました。物語の展開がしっくりこない部分があり、直木賞の選評を確認しました。三浦しをんさんのコメントが、わたしの意見とほぼ同じだったので、なぜだかほっとしました。一方で、本作を激賞している評者もいましたし、そもそも一回目の投票ですんなり直木賞受賞となったようなので、作品に合う人は多いのかもしれません。
マタギの話です。熊爪は、北海道の山の中で一人で暮らしています。明治のおわりの、日清戦争か日露戦争の開始の少し前の頃の話です。
物語は鹿撃ちの場面から始まります。犬と一緒に息をひそめています。ひゅうっと、口笛のような風のような音を立てる熊爪。鹿はさっと首を上げ、警戒で体をこわばらせます。狙っていた一瞬です。ずどんと一発で鹿を仕留めました。この駆け引きの描写は、誰にでも書けるものではありません。ど迫力が伝われば嬉しいです。
鹿を撃つタイミングの取り方、撃った直後の内臓処理、血抜き、鹿の担ぎ方まで、生々しすぎてグロテスクに感じる部分です。気になってネットで確認したら、著者は本当に狩猟の経験のある人でした。著者の兄が銃の免許を持っていて、狩猟後の鹿の解体が役目だったとのこと。当然、狩猟にも一緒に行ったのでしょうね。また、羊飼いの経験もあって、皮剥ぎやなめし、肉の処理などの経験もあるようです。深く納得しました。だからこその描写は、一読する価値があります。
物語は、一人で暮らす熊爪の視点で進んでいきます。山に他の猟師がまぎれてきたり、町に熊の胆や毛皮を売りに行って米や弾丸を買いに行ったりして、食いつなぐ生活を綴っています。生活そのものが特殊なので、魅力的な題材です。物語は、熊爪と熊との対決を軸に展開していきます。
なぜともぐいという題名なのかは、読者にゆだねる形です。読了後、一晩おいたら意味がおぼろげながら分かってきました。直木賞の選評は納得するものが多かったです。でも、天分という用語を使った選者はいませんでした。わたしの感覚では、天分がキーワードと思っています。生き物が知る天分。生き物には栄枯盛衰があり、自分が最強の時、衰えた時を自ら知り、死期を悟って本能的に身を引くという習性があります。現代の人間では捉えにくい感覚ですが、動物世界に近い熊爪にはあるようです。
この物語は、人間も獣の本能があることを書いている気がします。ほかの登場人物たちは、人間社会にまぎれているので天分は分かりにくいのですが、やはり自らの運命を悟ったような行動をとっています。
狩猟経験のある著者ならではの実感のこもった価値観が伝わりました。終盤に分かりにくい展開があるのですが、天分という視点で読むと自分の頭が整理されました。癖の強い作品です。読む人を選びますが、はまる人はがっつりという作品ですよ。
マタギの話です。熊爪は、北海道の山の中で一人で暮らしています。明治のおわりの、日清戦争か日露戦争の開始の少し前の頃の話です。
物語は鹿撃ちの場面から始まります。犬と一緒に息をひそめています。ひゅうっと、口笛のような風のような音を立てる熊爪。鹿はさっと首を上げ、警戒で体をこわばらせます。狙っていた一瞬です。ずどんと一発で鹿を仕留めました。この駆け引きの描写は、誰にでも書けるものではありません。ど迫力が伝われば嬉しいです。
鹿を撃つタイミングの取り方、撃った直後の内臓処理、血抜き、鹿の担ぎ方まで、生々しすぎてグロテスクに感じる部分です。気になってネットで確認したら、著者は本当に狩猟の経験のある人でした。著者の兄が銃の免許を持っていて、狩猟後の鹿の解体が役目だったとのこと。当然、狩猟にも一緒に行ったのでしょうね。また、羊飼いの経験もあって、皮剥ぎやなめし、肉の処理などの経験もあるようです。深く納得しました。だからこその描写は、一読する価値があります。
物語は、一人で暮らす熊爪の視点で進んでいきます。山に他の猟師がまぎれてきたり、町に熊の胆や毛皮を売りに行って米や弾丸を買いに行ったりして、食いつなぐ生活を綴っています。生活そのものが特殊なので、魅力的な題材です。物語は、熊爪と熊との対決を軸に展開していきます。
なぜともぐいという題名なのかは、読者にゆだねる形です。読了後、一晩おいたら意味がおぼろげながら分かってきました。直木賞の選評は納得するものが多かったです。でも、天分という用語を使った選者はいませんでした。わたしの感覚では、天分がキーワードと思っています。生き物が知る天分。生き物には栄枯盛衰があり、自分が最強の時、衰えた時を自ら知り、死期を悟って本能的に身を引くという習性があります。現代の人間では捉えにくい感覚ですが、動物世界に近い熊爪にはあるようです。
この物語は、人間も獣の本能があることを書いている気がします。ほかの登場人物たちは、人間社会にまぎれているので天分は分かりにくいのですが、やはり自らの運命を悟ったような行動をとっています。
狩猟経験のある著者ならではの実感のこもった価値観が伝わりました。終盤に分かりにくい展開があるのですが、天分という視点で読むと自分の頭が整理されました。癖の強い作品です。読む人を選びますが、はまる人はがっつりという作品ですよ。
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ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。
自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784103553410
- 発売日:2023年11月20日
- 価格:1925円
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