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星落秋風五丈原
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売り言葉に買い言葉で始まった探検(NOT漂流!)記
 映画化もされたので知っている人も多いのではないだろうか。

 1947年4月28日、ペルーの首都リマに近いカヤオ湊から、トール・ヘイエルダールと5人の男達が乗った木製の筏が出港する。船とも言えぬ筏の名前はコン・ティキ。写真もあるが、ヨットに比べ両幅もないので、大波やオルカが来たらすぐにひっくり返りそうだ。

 なぜこのような形で航海に出ることになったのか。「インカ帝国以前に南米に住んでいた人々が、太平洋を渡ってポリネシアの島々の最初の国民になった」という説を証明するためだ。人類学を専攻したトールは、ブルックリン博物館の館長で探検家クラブの会長で著名な考古学者ハーバート・スピンデン博士を訪ねて
「南米からポリネシアに行く船がなかったと言われるが、筏があります!」というと
「そうですね。あなたはバルサの筏に乗って、ペルーから太平洋諸島に旅行できますよね」
と言われたため、ならばやってやろうじゃないか!と筏の航海を決意した。つまり、売り言葉に買い言葉というわけだ。こういう勢いで始まった航海は大抵が失敗する。ちなみにバルサとは最も軽い木材である。

 皆が皆「それは自殺行為」と却下すれば成り立たないが、「うわ!いいなぁ!俺もやりたい!」という冒険野郎が集まった。戦争後間もないのに、危険を顧みないとは、何かリミットが振り切れてしまったのだろうか。総勢六人の船旅は、行方も分からず彷徨うわけではないから断じて漂流記ではない。しかし舵らしきものもなく、無線は辛うじてあるものの、大海の中で筏を見つけるのは、船とは訳が違う。ましてやスペースが限られているので食料はあまり持ち込めない。地産地消ならぬ海での獲得となる。危険が50%を占める探検を、彼らは見事やってのけた。とはいえ、最後は座礁する。それでも命があっただけめっけものだ。

 コン・ティキ号の成功イコール、インカ帝国以前の航海の証拠とは認められず、単にそういう事が可能である、という説に留まったのが残念である。というより、考古学的に認められる遺跡を海洋で発見するのは、ほぼ不可能に近いと思われるので限界なのでは。
    • 映画「コン・ティキ」
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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