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ぽんきち
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必要とされながら報われない仕事を正当に評価するために。
「ゴースト・ワーク」とは、スマホのアプリやウェブサイト、人工知能(AI)システムが正常に運用される陰で行われている、人間の手による細かな作業を指す。
一見、自動で行われているように見えるオンライン操作にも、実は人の手が介在していることが多い。
検索をしたときに、過度に暴力的だったりアダルトコンテンツに属したりする画像を表示しない。あるいは、ややこしくカスタマイズされた注文を滞りなく受ける。
こうした場合、AIが自動的に処理しているわけではない。不足を補い、躓きを正している「見えざる手」がある。急速に進展・変化していくこの業界で、やはり最終的に微調整を行えるのは「人」なのである。
そうした仕事をどういう人たちが行っているかというと、「ギグ・ワーカー」と呼ばれる単発・短時間の仕事に従事する人たちである(「ギグgig」の語源は諸説あるようだが、音楽などでのライブセッションを指す。転じて、1回限りの仕事に用いられるようになっている)。
本書では、ウェブ関連のこうした仕事のことを「ゴースト・ワーク」と呼んでいる。なかなか人目に触れない仕事であるためだ。とはいえ、アメリカでは推定8パーセントがこうした仕事の経験があるというから、相当である。
実際、こうした単発の仕事は、介護や子育て、就学中など、さまざまな事情を抱える生活スタイルの人にも受け入れられやすい。企業の側からすると、正社員として雇用するよりコストが抑えられ、また必要な仕事が発生した際に身軽に対処できるというメリットがある。
問題は、これらの仕事が正当に評価されないまま、その市場を大きくしていること。そのために生じる歪みが、得てしてワーカー側に押し付けられていることだ。
ではどうしたらよいのか、というのが本書の主眼。

著者らはマイクロソフトリサーチの上級主任研究員。
調査対象としたのはアメリカとインドのゴースト・ワークの状況である。
ゴースト・ワーカーの多くがMターク(アマゾン・メカニカルターク)やユニヴァーサル・ヒューマン・レリヴァンス・システム(UHRS:マイクロソフトの社内プラットフォーム)といったプラットフォームを使用し、働いている。
まずはプラットフォームに登録し、掲載された仕事が自分に適したものだと思えばアプライし、作業を進め、収入を得るという仕組みである。
ただ、実入りのよい仕事は競争も激しく、すぐに枠が埋まる。四六時中パソコンを眺めていないと、よい仕事にはありつけないということになりがちである。
また、何かトラブルが生じたときに、すぐ誰かに相談できるかというとなかなかそうもいかないことが多い。システムのトラブルなのに、納期に間に合わないと、ワーカー側のミスとしてカウントされることもある。ここではワーカーは番号を振られた匿名の存在であり、一度評価付けされると背景まで考慮されることはない。
全体に、発注側に有利な仕組みとなっており、ワーカーの立場は弱い。

著者らは最終章で解決策を提示している。
協同を進めること、評価システムを改善すること、責任の所在を明確にすること等、大筋では妥当な案と思われる。
但し、企業が営利を追求するうえで、常にこうした方向に舵取りすることはなかなか困難なのではないか(そこに労力や資金を振り向ける気があるのなら、そもそもギグワーカーを使うという発想にはならないのでは、という気もする)。
その際に、企業の「良心」に頼るのか、国家や政府機関の法的な介入を求めるのか、あるいは企業にも労働者にもウィン-ウィンになるような何らかの方策を探すのか、そのあたりが肝になりそうに思う。

全般にアメリカ主体の話で、日本にもゴースト・ワーカーは一定数いるのだろうが、完全には当てはまらなそうな話も多い。
とはいえ、少し話を広げれば、フリーランス全般に言えそうな部分も多い。自由度の高い働き方を求める人は今後、さらに増えていくだろうし、本書の考察が参考になる人も多いのではないだろうか。
経済学者・起業家の成田悠輔が監修・解説。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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