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ぽんきち
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クマたちはいつどこでどのように人を襲ってきたのか
今年は例年以上にクマによる被害のニュースが多い。人身被害は、過去最多だった2020年を上回る勢いである。
クマが殺処分されると、管轄市町村に苦情が寄せられることも多いというが、さて手をこまねいたままで共存していけるのか、難しいところではないだろうか。

本書は2022年11月刊。
なかなかインパクトのあるタイトルだが、ヒグマがアイヌの人々に「カムイ=神」とされたところから名付けたのだろう。ただ本文中では特にアイヌとの関わりには触れておらず、明治期以降の北海道や樺太でのクマ(特に人喰い熊)被害に焦点を当てている。

明治11年から昭和20年まで、70年に渡る地元紙(函館新聞、北海タイムス、小樽新聞、樺太日日新聞)に目を通してクマに関する記事を拾い出し、データ化したというからその労力に恐れ入る。それに加えて市町村史や郷土史等にもあたっているという。
そこから浮かび上がってくるのは、まずは予想以上にクマによる人身被害は多いということだ。吉村昭『羆嵐』の三毛別事件はつとに有名だが、それ以外にもかなりの事例がある。新聞記事などで記述される「人喰い熊」の事件の現場はどれも相当凄惨である。

これ以前にどれくらいの人身被害があったのかは不明だが、この近代のクマ事件に関して、著者はいくつか仮説を述べている。
大筋としては、人間がクマの居住地に入り込み、衝突が生じやすくなったということで、これはなるほどその通りだろう。著者が注目した時代は開拓時代にあたり、多くの人が入植し、鉄道等も発展した時代である。
恐ろしい野獣と思われるヒグマだが、「人喰い」に走るクマは実はさほど多くはないという。著者の概算では全体の0.04~0.06%程度で、いくつかの事件は同一のクマによるものではないかと述べている。北海道内でも事件が多い地域とそうでない地域があり、「人喰い」クマの「血脈」のようなものがあるのではないかとの推測もしているが、このあたりはどうだろうか。母熊が人間を狩るのを見て子熊が習得したという推測もしており、個人的にはこちらの方がありそうな印象は受ける。
鉄道の工事や軍事演習の音がストレスになったという説も述べているが、可能性としてはともかく、若干根拠は弱いように思う。
開拓期は狂犬病が流行した時期でもあり、中には狂犬病に罹って狂暴化したクマもいたのではないかという推測は、同様に根拠は弱いのだが、ちょっと興味をひかれる発想である。

巻頭のクマ事件発生マップが労作で、目を奪われる。
クマが暴れた地点がそこここに点在しているわけだが、これは同時に、人間が居住域を広げていった証左でもある。そうして住むところを追われていった野生動物は数多かっただろうが、ヒグマの場合は体も大きく、力も強い。ひとたび人を襲うようになったクマとの「共存」は容易なことではない。

「おわりに」で著者は近年のクマ被害についても触れている。過疎化が進み、野生動物が再びテリトリーを広げつつある。農業が大規模化し、無人の畑地が増えて餌が入手しやすくなったこともある。
猟師は高齢化し、駆除に関する目も厳しい。ヒグマはここ20年間で4倍に増えているという。
人とクマ、両者にとって「ちょうどいい」距離を保つ術はあるのだろうか。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. ef2023-11-27 10:29

    難しい問題ですね。人が熊の領域を冒していると言われたら……なのですが。
    でも、一方で、今年は顕著ですが、熊を殺すなみたいな苦情はどうかと思います。現に、人が死んでいるというのに、その駆除にご苦労されている方たちを非難するような言い振りには納得できないんですよね。

    どう、自然と向き合うかということを考え直さなければならないのかもしれませんね。
    難しい……。

  2. ぽんきち2023-11-27 11:59

    efさん

    本当にそうですね。
    実際、駆除にあたる猟師の方も、心無いことを言われることがあるのだそうです。そもそも報酬があっても大した額でもないうえ、危険な(場合によっては命を落とす)仕事のため、報われなさにやる気もなくなるだろうなと思います。

    個人的には駆除はやむなしと思うのですが。
    少なくとも数を増やさないようにしないと、事故はさらに増えるんじゃないかなぁ。

    うまく共存していければよいのですが。難しいですねぇ・・・。

  3. No Image

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