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ウロボロス
レビュアー:
書物は単独で存在するのではなく、無数の関係が集まる軸である。 ホルヘ・ルイス・ボルヘス
この短篇作品はボルヘスの『伝奇集』のなかのひとつで「八岐の園」のタイトルで過去に鼓直、篠田一士の翻訳で知られていて、「八岐の園」のプロローグには以下の有名な言葉が記されているそうです。

《数分で語り尽くせる着想を五百ページに渡って展開するのは労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。よりましな方法は、それらの書物がすでに存在すると見せかけて、要約や注釈を差しだすことだ》

まさにこの短編作品はそれが真骨頂として凝縮されているように感じました。

この作品の粗筋を要約すると次のようになる。
第一次大戦中の英・独との間でのスパイ合戦の心理戦に巻き込まれた主人公が、その相棒が捕らえられ、やがて自身の身に迫る危機をどのようにのりきるか?とみせかけて、主人公ががみたのは、胡蝶の夢なのか、リアルな現実なのか?を読者になげかけ再読、再々読をせまりそれはまるで迷宮のように脳内をひっかきまわしてくれるのですが、それが心地よいのです。まるでエッシャーの騙し絵をみているような……。

まずもって文章が、文体が素晴らしい。言葉が繊細でいて煌めいて時には強靭に大気中に浮遊し、淀みがなく、寄せては返す波のように滑らかなのです。この作品のテーマである《時間》という概念を描写する次の文章にそれが如実にあらわされている。

《『あまたの叉路の庭』は、テュイ・ペンが懐中で温めていた世界の不完全な、しかし偽りのない心象なのだ。ニュートンやショーペンハウアーと違って、きみの先祖は均一で絶対的な時間というものを信じていなかった。信じていたのは時間の無限の連鎖、目粉しく生長する網、分岐し、収斂し、並行する時間の網だ。時間の織物、接近し、分岐し、交錯する、あるいは何百年もたがいに擦れちがうそれは、あらゆる可能性を包含する。(略)ある時間にきみは存在し、
わたしは存在しない。ほかの時間にわたしは存在し、きみは存在しない。》

ボルヘスは、どこかでで以下のように語っていたと記憶しています?

「書物は単独で存在するのではなく、無数の関係が集まる軸である。」と。

書物とは、無関係で無秩序である未関係のものが絡まり、言語の網を、手繰りよせると関係が発生し、カオスがコスモスに弁証法的に止揚され、物語が誕生するのではないか?
短編作品ですが500ページを超える長編を読まされたような気にさせられました。
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ウロボロス
ウロボロス さん本が好き!1級(書評数:275 件)

これまで読んできた作家。村上春樹、丸山健二、中上健次、笠井潔、桐山襲、五木寛之、大江健三郎、松本清張、伊坂幸太郎
堀江敏幸、多和田葉子、中原清一郎、等々...です。
音楽は、洋楽、邦楽問わず70年代、80年代を中心に聴いてます。初めて行ったLive Concertが1979年のエリック・クラプトンです。好きなアーティストはボブ・ディランです。
格闘技(UFC)とソフトバンク・ホークス(野球)の大ファンです。

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