書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

紅い芥子粒
レビュアー:
お金はある愛もある。理想の家族の底に潜む狂気—— 衝撃の児童文学。
児童文学で殺人を書くのは、はばかられる。
ましてや、家族間の殺人とか、理由なき快楽殺人なんて。

1983年から1988年に同人誌「鬼が島通信」に連載された作品。

絵に描いたような理想の家族。
父親は有名なカメラマン、母親は良き妻であり賢い母、姉は美人で頭のいい高校生、
兄は口うるさくてひがみっぽい中学生、そして語り手の省一は小学六年生。

一家は、人もうらやむ幸せな家族として、保険会社のCMに出演することになった。
題して「幸せな家族」。
家族そろった家族の日常を、長期にわたって撮影するため、四人の撮影スタッフが省一の家に入り浸ることになった。

その何日目かに、事件は起きた。父親が、死体で発見された。
傍には赤い柄のカッターナイフ。密室殺人。
犯人は、家族と撮影スタッフの中にいる。

警察の捜査が行き詰まる中、二人目の変死者が出た。
中学生の兄。煮えたぎる大鍋の熱湯をかぶって。これは、事故死か?

夫と長男を立て続けに失い、しかも二人とも変死とは……精神を病む母。
さらに三人目の死体が、燃えるようにカンナが咲いた花壇に横たわる。

これらの変死事件は、「その頃はやった唄」という歌の詞をなぞるように起きている。

こんな詞だ。

子どもは父を憎んでた  働き者は邪魔になる
そこで子どもは風の晩  こっそりナイフを研ぎました
……



こんな怖い詞が、兄、母、友、姉 と続くのだ。

物語は、末っ子の省一の一人称で語られいく。その虚無的な語り口から、誰が犯人か、読者にはうすうす見当がつく。いやだな、はずれたらいいなと思いながら、読み進んでいくと、最後の最後に、この恐ろしい物語が、刑事にあてた告白の手紙だとわかる。

お金はある。愛情もある。足りないものなんてなにもない。そんな幸せな家族に潜む狂気。
それでも断ち切ることのできない、強い家族の”絆”。
この本を読み終えたとき、子どもたちの心にどんな感情と思いが残るだろう。

掲載日:
投票する
投票するには、ログインしてください。
紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:560 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

参考になる:32票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. noel2024-10-24 15:27

    狂気の連鎖。まるで、面識もない若者たちが闇バイトで集められて、むやみな殺人を犯す、そんな恐怖の時代の闇を感じました。

  2. 紅い芥子粒2024-10-24 21:31

    noelさん、お久しぶりです! 恐い児童文学作品でした。とてもnoelさんにはおすすめできません(笑)

    わたしは、ぼちぼちやっていますから、またのぞいてくださいね。

  3. noel2024-10-25 23:01

    はーい、ありがとうございまーす。

  4. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『幸せな家族-そしてその頃はやった唄』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ