星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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各話がパーツとなって 一つの飛行機=作品を飛ばすイメージ
 グレート・サークル(大円)とは、球を完全に二等分したとき、その切り口に現れる円のことを言う。本篇中では、幼い頃から空の世界に魅了されてきた命知らずの女性パイロットマリアンが、南北の極点を経由する大円に近いルートでの地球一周飛行に旅立つ。
50年後、2014年のハリウッドに生きる若手女優ハドリー・バクスターは、人気TVシリーズのヒロインを演じて一躍人気者に。ヒーロー役の共演俳優と交際していたが、パパラッチに日々追いまわされるなか、別の男性との浮気が疑われる写真を撮られてしまい、作品のイメージを壊したと熱狂的ファンに騒がれ、作者から役をおろされてしまう。スキャンダルでつまずいた彼女に、ハリウッド映画でマリアン役を演じるチャンスが舞い込む。幼少時に両親をセスナ機の墜落事故で亡くし、マリアンと同じく放任主義の叔父のもとで育ったハドリーは、その役に運命的なものを感じて、役を通じて彼女を知ろうとする。
本編は過去・現在の二大ヒロインが活躍する物語である。とはいっても、時代色から「女性パイロットなんてとんでもない!」と否定的な世間の壁にぶつかっては、悉く壊してきたマリアンの存在感の強さが圧倒的である。大戦を挟む時代なので、パイロットとして危険な任務にも就く。自分を抑圧しようとする存在にはとことん逆らい、ハドリーの物語もしっかり軸をとって展開されるが、どうしてもマリアンを“追う”側のハドリーが地味になる。ハドリーは若干読者に寄るポジションなので仕方ない。とはいえ、映画界・当時の社会と男性上位の中で苦闘する運命は二人とも共通しており、彼女たちの心情、置かれた状況が響き合うように描かれている。
マリアンが目立つとはいえ、脇役が決して地味でも埋没してもいない。マリアンの双子の弟ジェイミーは、メカ好きの姉とは正反対に優しい性格で、動物が好きな穏やかな子に育つ。伯父の影響で画家を志すようになったジェイミーとマリアンは、近所のやんちゃ坊主ケイレブとつかず離れずでたくましく育っていく。
過去編の冒頭はマリアンの両親のエピソードだ。企業家の友人の頼みで危険な貨物を聞かずに乗せてしまった父、虐待経験から家族とまともな関係を築けず、産後うつに陥った母のエピソードだけでも一作は作れそうなくらい濃い。ハドリーの物語も、彼女に絞れば濃い作品になる。合間にリンドバーグやアメリア・イアハートら航空史も挿入され、男性に比べ女性の活躍の機会が少ない事が史実でも示される。ケイレブがマリアンに語ったホントとも嘘ともつかぬ話も、掘ってみたらなかなか深そうだ。
本編は、パーツを組み立てて飛行機が飛び立つように、深い味わいの物語が組み合わさって、一つの大河物語を成している。舞台はモンタナ、シアトル、スコットランド、ヴァンクーヴァー、アラスカ、ニューヨーク、イングランド、ニュージーランド、ハワイ、北極/南極、ロサンゼルス、陸、海、空を網羅しており、グレート・サークルを描く。
1936年にイングランドからニュージーランドまで初めて単独飛行した女性飛行士の史実からインスパイアされ、調査と執筆に7年をかけ完成された本作は、800ページ越えで読み応えあり。ブッカー賞の2021年最終候補、2022年の女性小説賞最終候補に選出され、TIME/NPR/ワシントン・ポスト/LitHubなどで2021年のベストブックに選出。
50年後、2014年のハリウッドに生きる若手女優ハドリー・バクスターは、人気TVシリーズのヒロインを演じて一躍人気者に。ヒーロー役の共演俳優と交際していたが、パパラッチに日々追いまわされるなか、別の男性との浮気が疑われる写真を撮られてしまい、作品のイメージを壊したと熱狂的ファンに騒がれ、作者から役をおろされてしまう。スキャンダルでつまずいた彼女に、ハリウッド映画でマリアン役を演じるチャンスが舞い込む。幼少時に両親をセスナ機の墜落事故で亡くし、マリアンと同じく放任主義の叔父のもとで育ったハドリーは、その役に運命的なものを感じて、役を通じて彼女を知ろうとする。
本編は過去・現在の二大ヒロインが活躍する物語である。とはいっても、時代色から「女性パイロットなんてとんでもない!」と否定的な世間の壁にぶつかっては、悉く壊してきたマリアンの存在感の強さが圧倒的である。大戦を挟む時代なので、パイロットとして危険な任務にも就く。自分を抑圧しようとする存在にはとことん逆らい、ハドリーの物語もしっかり軸をとって展開されるが、どうしてもマリアンを“追う”側のハドリーが地味になる。ハドリーは若干読者に寄るポジションなので仕方ない。とはいえ、映画界・当時の社会と男性上位の中で苦闘する運命は二人とも共通しており、彼女たちの心情、置かれた状況が響き合うように描かれている。
マリアンが目立つとはいえ、脇役が決して地味でも埋没してもいない。マリアンの双子の弟ジェイミーは、メカ好きの姉とは正反対に優しい性格で、動物が好きな穏やかな子に育つ。伯父の影響で画家を志すようになったジェイミーとマリアンは、近所のやんちゃ坊主ケイレブとつかず離れずでたくましく育っていく。
過去編の冒頭はマリアンの両親のエピソードだ。企業家の友人の頼みで危険な貨物を聞かずに乗せてしまった父、虐待経験から家族とまともな関係を築けず、産後うつに陥った母のエピソードだけでも一作は作れそうなくらい濃い。ハドリーの物語も、彼女に絞れば濃い作品になる。合間にリンドバーグやアメリア・イアハートら航空史も挿入され、男性に比べ女性の活躍の機会が少ない事が史実でも示される。ケイレブがマリアンに語ったホントとも嘘ともつかぬ話も、掘ってみたらなかなか深そうだ。
本編は、パーツを組み立てて飛行機が飛び立つように、深い味わいの物語が組み合わさって、一つの大河物語を成している。舞台はモンタナ、シアトル、スコットランド、ヴァンクーヴァー、アラスカ、ニューヨーク、イングランド、ニュージーランド、ハワイ、北極/南極、ロサンゼルス、陸、海、空を網羅しており、グレート・サークルを描く。
1936年にイングランドからニュージーランドまで初めて単独飛行した女性飛行士の史実からインスパイアされ、調査と執筆に7年をかけ完成された本作は、800ページ越えで読み応えあり。ブッカー賞の2021年最終候補、2022年の女性小説賞最終候補に選出され、TIME/NPR/ワシントン・ポスト/LitHubなどで2021年のベストブックに選出。
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152102621
- 発売日:2023年08月17日
- 価格:4070円
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