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星落秋風五丈原
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「消えた人」たち=小さな町を見つけ出した時 あなたはどうしますか?
表紙に登場する人達は、皆赤い服を着ている。赤い服といえば、ソウルの広場が赤で染まったワールドカップを想起するが、そのような熱気は表紙から感じられない。むしろ表情を決定する目が描かれないため、不穏な印象である。赤は情熱というより、血を想起させる。口が書かれている人物もいるが、口を開けているのは赤ん坊くらいで、それ以外の人たちは閉じている。

 結婚してソウルに住んでいる時間講師の私は36歳。芸能プロダクションで働く夫との関係は冷えている。日課として、夫が毎日せっせとスクラップしているノートをこっそり見るが、そこで見つけた、北朝鮮のスパイ容疑で冤罪だったにも関わらず20年も服役した男の記事がなぜか頭から離れない。あるとき落ちぶれた女優が突然姿を消したことを契機に、私は「消えていた」幼い頃の過去について回想していくことに。

 父が出ていった後母で暮らしたのはタイトルの『小さな町』。母は私が目出すことを異様に嫌がり、外に出さないようにした。その態度は行き過ぎた過保護とも見えたが、母の死後、なぜか父がしきりにコンタクトを取ろうとしてくる。森の中に隠れて暮らす女性と母との関係は。火事で死んだ兄の記憶が一切ないのはなぜか。

 主人公の一人称語りで、探偵を雇うなど積極的な捜索活動をするわけではないため、謎の解明はさほど早くない。むしろ事実を知った時の私の決断に主眼が置かれている。家族は、私がもっと深い傷を負わないようにを守るために、敢えて母親は消す決断をした。しかし結局自分の家庭は壊れてしまった。事実を知らせていれば、そうはならなかったのか。もしかしたら誰にも、記憶から消えてしまった(あるいは消してしまった)小さな町があるのかもしれない。さて、全てを知り、これから私はどう生きるのか。都合の悪い事は全て消していく、軽々とした暮らしをするのか。それとも全てを背負って重たく生きるのか。

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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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