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ゆうちゃん
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50代のサーニンの回想。彼はフランクフルトで親しくなったイタリア人の娘ヂェンマと婚約した。ヂェンマの母はサーニンにそれなりの経済力を期待したので、彼はロシヤの領地を売ることにしたのだが・・。
功成り名遂げたらしいドミートリイ・パーヴィロヴィッチ・サーニンの回想録。52歳の彼は、ある日の深夜、回想にふけり机の中から柘榴石の十字架を見つけた。そこから彼は22歳の時のフランクフルト、ヴィスバーデンでの出来事を思い返した。

旅費も尽きかけフランクフルトからロシヤに帰る深夜馬車を待つだけになった彼は、ふとある喫茶店に入ってみることにした。驚いたことに店の者らしい美貌の娘が彼に助けを求めてきた。奥に連れて行かれると娘の弟らしい少年が倒れている。気絶しているのだと思い服を脱がせてブラシでこすると正気付いた。後から呼ばれた医者はサーニンのしたことを的確だと褒めた。娘の名はヂェンマ、弟の名はエミリオで、ふたりは後で是非食事に来てほしいと言う。招待に応じたサーニンはロゼーリ一家の心の籠ったもてなしを受けて、馬車の出発時間も過ぎてしまう。結局、一家と親しくなり、友人に借金をして暫くフランクフルトに滞在することになった。ロゼーリ一家にはピクニックにも誘われた。ヂェンマにはクリューベルと言う商人の婚約者もいてピクニックに同行する。フランクフルト郊外のソーデンと言う場所でお昼を食べた。同じ食堂で食べていた兵隊の一団がいたが、中のひとりの少尉がヂェンマがあまりに美人なので酔って話しかけた。クリューベルは咎めなかったが、サーニンは侮辱だと言って決闘沙汰になった。決闘ではどちらも命を落とすことはなかったが、これによりヂェンマのサーニンを見る目が変わる。クリューベルとの婚約を破棄してサーニンとの結婚を決断した。しかし母のレノーレ・ロゼーリ夫人は娘の将来が不安である。レノーレ夫人自身が寡婦でクリューベルの経済力には期待していた。サーニンもロシヤの貴族の子弟であり領地を売って勤めに出ることを約束してレノーレ夫人の説得に成功した。彼は2週間の予定でロシヤに帰り領地を売る手続きを取るつもりだった。しかし、フランクフルトの町で寄宿学校で一緒だった幼馴染のボローゾフと出会う。彼の妻は大金持ちで、話の持ちかけ方によっては妻がお前の領地を買うかもしれないと言う。サーニンはロシヤに行かずに済むと思いボローゾフと一緒に彼の妻がいるヴィスバーデンに向かった。ボローゾフ夫人マーリヤ・ニコラーエヴナは美男のサーニンを気に入り領地を売る話はとんとん拍子に進みそうだった。だが彼女は一筋縄では行かない女性だった。

これはツルゲーネフ自身の体験記だと言う。ほろ苦い青春を50代の男が回想すると言うのは、小説にはよくありそうな場面で、実際シュトゥルムの「みずうみ」などが代表例に思える。あちらは「静」の小説であるが、こちらは「動」の小説と言えるかもしれない。サーニンはヂェンマとの結婚のためにあれこれ動くが、それが仇となってしまう。しかし美女との結婚を間近に控えた男がヴィスバーデンで取る行動は理解し難いし、共感もできない。実体験だと言われなければ、小説のプロットに疑いを持ってしまうような作品である。普通なら回想で終わるのだが、回想から目覚めたサーニンは、ある行動をとる。それが単なる回想記で終わらない、この小説の良い点であり救いかもしれない。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1688 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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