ぱるころさん
レビュアー:
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村上春樹の新訳による、色鮮やかなカポーティの世界。『飛べない鳥にどんな意味があるの?』ジョエル少年が投げかける疑問は、永遠のテーマなのだろうか。
カポーティ初の長編小説『遠い声、遠い部屋』(1947年)。日本では河野一郎訳で長年読まれてきたが、先日、村上春樹による新訳が刊行された。
13歳の少年ジョエルは、幼い頃に両親が離婚。母を病気で亡くした後はニューオーリンズで叔母一家と暮らしていたが、突然、行方知れずの父から叔母宛に「ジョエルを引き取りたい」という旨の手紙が届く。ジョエルは手紙の案内に沿って、辺鄙な町ヌーン・シティーのランディングという屋敷を目指す。
屋敷に辿り着いたジョエルは、父の後妻エイミーと、その従兄弟ランドルフに会う。エイミーは精神的に少し不安定で、ランドルフは立ち振る舞いがやや女性的。二人とも悪い人ではないようだが、父親となかなか引き合わせてもらえないことがジョエルには気がかりだ。
どこか不気味さ漂うランディングの屋敷。表面がゆらゆらと波打つ姿見、窓の中に見えた謎の女性、音もなく転がってきた赤いテニスボール…
そして、ようやく対面できた父親は寝たきりの体。僅かに動く両目と、赤いテニスボールを使って意思表示をする。
『これが彼なの?』
ジョエルにはその姿が恐ろしかった。
13歳の少年の目に、初めて見る景色はこんなふうに映るのだろうか。物語が進むにつれて広がるのは、色鮮やかで幻想的な世界だ。
屋敷までの旅と新たな暮らしの中でジョエルは、今までの常識を覆すような人物たちと出会う。百歳を超えた小さな黒人ジーザス・フィーバーと、孫娘のズー。対照的な双子の姉妹で、男の子になりたいアイダベルと、女の子らしさが命のフローラベル。ジョエルに護符を授けてくれるという隠者のリトル・サンシャイン。巡回ショーの舞台に上がる「小人」のミス・ウィステリア。
『飛べない鳥にどんな意味があるの?』
ジョエルがランドルフに投げかける疑問は、心の中に持つ幻想の世界に生じた迷いを表す。多様性やマイノリティについての問題提起とも読み取れるだろう。
幻想の世界では、孤独な生涯を送るであろうミス・ウィステリアがジョエルに語りかける。
『死んだ人は生きている人と同じくらい淋しいの?』
「生きることが淋しい」と訴えているのは、ミス・ウィステリアではなくジョエルか。あるいはカポーティ自身だろうか。
初読ではとても読み尽くせない。旧訳との読み比べもしてみたい。時間をおいて二度三度、再読したくなる作品だ。
13歳の少年ジョエルは、幼い頃に両親が離婚。母を病気で亡くした後はニューオーリンズで叔母一家と暮らしていたが、突然、行方知れずの父から叔母宛に「ジョエルを引き取りたい」という旨の手紙が届く。ジョエルは手紙の案内に沿って、辺鄙な町ヌーン・シティーのランディングという屋敷を目指す。
屋敷に辿り着いたジョエルは、父の後妻エイミーと、その従兄弟ランドルフに会う。エイミーは精神的に少し不安定で、ランドルフは立ち振る舞いがやや女性的。二人とも悪い人ではないようだが、父親となかなか引き合わせてもらえないことがジョエルには気がかりだ。
どこか不気味さ漂うランディングの屋敷。表面がゆらゆらと波打つ姿見、窓の中に見えた謎の女性、音もなく転がってきた赤いテニスボール…
そして、ようやく対面できた父親は寝たきりの体。僅かに動く両目と、赤いテニスボールを使って意思表示をする。
『これが彼なの?』
ジョエルにはその姿が恐ろしかった。
13歳の少年の目に、初めて見る景色はこんなふうに映るのだろうか。物語が進むにつれて広がるのは、色鮮やかで幻想的な世界だ。
屋敷までの旅と新たな暮らしの中でジョエルは、今までの常識を覆すような人物たちと出会う。百歳を超えた小さな黒人ジーザス・フィーバーと、孫娘のズー。対照的な双子の姉妹で、男の子になりたいアイダベルと、女の子らしさが命のフローラベル。ジョエルに護符を授けてくれるという隠者のリトル・サンシャイン。巡回ショーの舞台に上がる「小人」のミス・ウィステリア。
『飛べない鳥にどんな意味があるの?』
ジョエルがランドルフに投げかける疑問は、心の中に持つ幻想の世界に生じた迷いを表す。多様性やマイノリティについての問題提起とも読み取れるだろう。
幻想の世界では、孤独な生涯を送るであろうミス・ウィステリアがジョエルに語りかける。
『死んだ人は生きている人と同じくらい淋しいの?』
「生きることが淋しい」と訴えているのは、ミス・ウィステリアではなくジョエルか。あるいはカポーティ自身だろうか。
初読ではとても読み尽くせない。旧訳との読み比べもしてみたい。時間をおいて二度三度、再読したくなる作品だ。
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週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。
この書評へのコメント
- かもめ通信2023-09-11 08:02
この作品未読なので、新訳が出たこの機会にぜひ新旧読み比べも含めて挑戦したいと思っているのですが……。
毎度のことながら読みたい本のリストばかり長くなってしまっています。
ぱるころさんのレビュー、よかったらぜひ、こちら↓の読書会でもご紹介ください。
#やりなおし世界文学 読書会
https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no425/index.html?latest=20クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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