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献本書評
休蔵さん
休蔵
レビュアー:
本書はエンターテイメントという形を借りながら現代社会の危うさを突き付ける啓蒙書と感じた。真の正義とは存在するのか、そして平和を維持することは人間に可能なのか。思い悩まされた1冊。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 はじまりは1人のテロリストの死。
 2017年8月30日のこと。
 そして、2021年9月11日、世界貿易センタービルへ自爆テロから20年経ったこの日に事態は大きく動いた。
 件のテロリストと深くかかわる男が出頭してきたのだ。
 赤星瑛一。
 赤星はかつて自衛隊に所属し、CIAに転身した後、ISに潜入してテロリストとして活動した人物。
 そして、アメリカにより国際指名手配され、追われる身となっていた。 
 彼はCIAに暗殺されることを恐れ、警視庁に保護を求めて出頭したのだ。
 この出頭で世界は破滅の危機へと突き落とされそうになる。
 キーとなるのはAI。
 
 本書の大半は2021年9月11日の出来事。
 そこに赤星の独白が回想シーンとして挿入される。
 24時間という限られた期間は、攻撃までに用意された猶予。
 要求は赤星の解放。
 自ら出頭した赤星の解放というちぐはぐな展開に、さらに事態はややこしくなる。
 アメリカが赤星の引き渡しを要求したのだ。
 日本政府としてはこれ幸いという展開であったが、赤星はアメリカに渡されることは自身の死に繋がると告げる。
 そして、アメリカへの引き渡しを妨害するように羽田のシステム障害が発生し、国会議事堂は無人偵察機の攻撃を受ける。
 テロリストは日本への「サイバー戦争」の宣戦布告を行った。

 官邸と防衛省、そして警察庁は一岩になって事態に対処できず、右往左往。
 対応は後手後手にまわり、常にテロリストが一歩先を行く有様。
 ついには東京の電力供給が止められ、国民生活は混乱に陥る。
 さらに追い打ちをかけるように、北朝鮮によるミサイル発射を知らせる警報が。
 
 赤星とアメリカ、そして中東と様々な立場が、それぞれの思惑で動く。
 それらに巻き込まれたかのような日本は、最終的に自身の防衛のあり方について突き付けられることになった。
 エンターテイメントでありながら、平和とはいったい何なのか、明確な正義とは存在するのか、やむを得ぬ犠牲なんてあるのだろうか、等々、相当に考えさせられる1冊だった。

 私たちは利便性を追求してきた。
 ネット環境の整備はその最たるものかもしれない。
 インターネットがよちよち歩きのころ大学生だった身としては、現在のネット環境は信じがたいものがある。
 卒論のための調査・研究に、インターネットなんてろくに使わなかった。
 それでもなんとかなったと思っていたが、今からすると不十分な仕上がりだったと思う。
 整ったネット環境下では、もっともっと調べられることはあったはず。
 一見、良いこと尽くめのようであるが、脅威も繋がることに。
 軍事施設もインターネットという大きな枠のどこかで結びついている。
 遠隔で軍事施設すら制御できてしまう恐怖は、大学時代に想像することはなかった。
 いまでも気楽に暮らしているから、当時と変わらないかもしれない。

 ネットが世界中を繋いだ状況下で、真の平和は誰が維持するのか。
 人間にコントロールできるものなのか。
 ここに真の正義という難題が突き付けられる。
 正義は立場や考え方により変わる。
 Aの正義はBの悪であり、その逆も成り立つ。
 どちらも自分が正しく、相手が誤りとみなす。
 宗教も難しい。
 教義の解釈は人に委ねられる。
 では、宗教をAIに任せてみたらどうか。
 とある宗教の神という立場をAIに任せてみる。
 そうすることで、字義通りの教義を全うする。
 正義と平和を追求する神として。
 
 本書はエンターテイメントという形を借りながら現代社会の危うさを突き付ける啓蒙書とも言えよう。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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