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hackerさん
hacker
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先日レビューした『フレッド・ジンネマン自伝』関連本です。ジンネマン監督の代表作の一つ『ジャッカルの日』の原作は未読だったので、今さらながらですが、読んでみました。上下巻併せてのレビューです。
第二次大戦中イギリスに亡命しつつも、自由フランス軍を率いて北アフリカ戦線で戦い、パリ解放時には連合軍と共に自由フランス軍のリーダーとしてパリに入城したシャルル・ド・ゴール(1890-1970)は、アルジェリア独立戦争で揺れる世情の中、1958年10月に大統領に就任し、フランス第五共和制の最初の大統領となりました。大統領の実務権限を強化する彼自身の発案による新憲法案が、前月に行われた国民投票で約8割の賛成を得たことを受けてのものでした。しかし、軍部及び右派の期待に反して、1959年9月にアルジェリアの民族自決権を認める発言をします。これに反対する勢力がOASと呼ばれる秘密結社を作り、6回にわたってド・ゴール暗殺未遂または計画策定を行いますが、いずれも成功には至らず、1962年にド・ゴールはアルジェリアの独立を承認し、最終的にはOASは根絶されました。

フレデリック・フォーサイスが1971年に発表した本書は、この時期に、OASがド・ゴール暗殺の最後の手段として選んだ、どこの国の警察の記録にも載っていない、フランス語に堪能なプロの殺し屋、通称ジャッカルのド・ゴール暗殺計画の周到な準備と行動、そしてその動きを察知した政府側の代表である、司法警察ルベル警視との死闘を描いたものです。

こういう作品では、暗殺実行そのものもそうですが、それに至る準備がどこまで綿密に描かれているかが、その出来の決め手になると思います。その点において、本書は申し分ありません。特に感心したのは、殺しの依頼を受けたジャッカルが、まずド・ゴール関連の書物を読み漁り、彼がどういう人物であるかを理解しようとしたという部分で、それにより、誇り高きド・ゴールは殺し屋が付け狙っているからといって、公の行事予定を変更したりしないであろうことを、ジャッカルは理解したのだと思います。また、ルベル警視は、次のような発言をします。

「ド・ゴール将軍が、1年365日のうちのある日、すなわちパリ解放記念日には、自分の身がどんなに危険にさらされようと、誇りと面目にかけても、群衆の前で式典を挙行する、ジャッカルは計算したんでしょう」

そのパリ解放記念日に向けて、ジャッカルは計算されつくされた計画表を作り、着々と標的に近づきます。しかし、厳重極まりない警護の中、彼が用意した特注ライフルの射程距離130メートル以内に近づけるのでしょうか。また、自爆テロと違い、ジャッカルは自分の命を失うことは考えていないわけで、暗殺実行後、どうやってその場から立ち去るつもりなのでしょうか。

もちろん、現在の我々はこの暗殺が成就しなかったことを知っています。しかし、ジャッカルがどこまで肉薄できたのか、ジャッカルが失敗するとしたなら、その理由は何なのか、という興味で最後まで引っ張ってくれるのです。訳者は「事実と虚構を巧みに織りまぜて作品を創りあげる」のがフォーサイスの小説作法だと語っていますし、実在の人物も多々登場する本書に関して、どこまでがフィクションで、どこまでが事実かという質問に対する「答えは私の頭の中にしまってある。今後ともそれを明らかにするつもりはない」という作者の言葉を紹介しています。そして、本書は、とにかく面白い作品です。文庫本上下巻で約550ページでしたが、あっという間に読んでしまいました。

殺し屋を主人公にした小説は数多くありますが、私の読んだ範囲では、ジャン=パトリック・マンシェットの『殺戮の天使』やミシェル・リオの『踏みはずし』と並んで、特に印象的なものです。なお、エドワード・フォックスをジャッカルに、マイケル・ロンズデールをルベル警視に配役した映画も、監督ジンネマンの代表作の一つであり、同時に数ある殺し屋映画を代表する作品の一つとなりました。また、映画は、余計な細工を排除して、ストーリー的には、原作にかなり忠実に作られているのも好感が持てます。脚本としては、原作をうまく料理したとも、料理しやすい原作であったともいえるでしょう。ただ、訳者あとがきの中で紹介されている、出版当時にニューヨーク・タイムズに載った書評の中に「映画化されれば傑作が生まれるだろう」とあるのは、いただけません。傑作小説から、どれだけ愚劣な映画が生まれてきたかを知らない、あるいは映画を単に小説のストーリーを再現するだけのものと理解していると、こういう発言をするのでしょう。傑作小説を、表現方法の基礎がまったく違う映画という媒体で成功させるのは、それはそれで大変なことなのです。
    • ジャッカル(エドワード・フォックス)ぴったり!
    • ルベル警視(マイケル・ロンズデール)ぴったり!
    • シャロンニエール男爵夫人コレット(デルフィーヌ・セイリグ)う~やっぱりきれい!
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2282 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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