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ぽんきち
レビュアー:
「ホロドモール」の記憶
著者・イゴルトはイタリアを代表する漫画家。日本でも活動歴があり、90年代に雑誌「モーニング」で作品が連載されたこともある。
谷口ジローの熱烈なファンでもあり、谷口との二人展が開催されたこともあるという。

本書は、著者が2008~2009年にウクライナとロシアに滞在したころ、市中で会った人々からの聞き取りが元になっている。原著発刊は2010年。

ウクライナは1922年にソビエト連邦を構成する国となる。その後、第二次世界大戦を経て、1991年にはソ連が崩壊し、独立。だが経済的にはロシアへの依存は大きいままで、ロシア語話者も多く、親ロ派・親欧米派の綱引きが続いた。
著者が滞在したころは、2004年のオレンジ革命で親欧米派のユシチェンコが大統領となった後、2010年に親ロ派のヤヌコーヴィチが大統領となる前となる。ベルリンの壁崩壊からちょうど20年という時期だった。
また、1930年代前半の大飢饉「ホロドモール」を実際に経験している人がそれなりにいた時代でもある。

ウクライナは飢饉を何度か経験しているのではあるが、1930年代のそれは、スターリン政権による人為的かつ大規模なものとして特筆される。農業の集団化(コルホーズ(集団農場)の形成)、クラーク(富農)撲滅運動による反ソ連分子の強制収容、穀物の強制徴発、ノルマを達成しない農民への弾圧や処罰が契機となって飢饉が発生した。ホロドモールとは、飢饉を意味するホロドと、殺害を意味するモルを合わせた言葉で、いわば「飢餓殺人」である。

著者が取り上げる人々の人生は、重苦しいものが多い。
実際に子供のときにそれを経験し、数多くの死体が運ばれるのを目撃した人、あるいは人肉食の噂を聞いた人もいる。
ある女性が生まれた家は、家族が飢えないで済む程度の稼ぎはあったが、多すぎはしなかったために、クラークとして摘発されずに済んだ。この一家は一頭の雌牛に助けられた。牛の乳を売って、ふすま混じりのパンを買い、残った牛乳は子供たちの胃を満たした。
また別の男性。夫に捨てられた母。女手一つで育てられ、自身も子供のころから重労働についた。スターリン時代はコルホーズで働いた。家庭生活には恵まれず、結婚はしても長続きしない。転がり落ちるように不幸になっていく。こちらは、ホロドモールのせいというわけではないのだが、その時代を含め、ナチスの占領といった暗い時代がなければ、もう少しましな人生もあったのではないかと考えさせられる。

とはいえ、「ソ連時代はそれなりの暮らしが送れた。今(2008年・2009年当時)ウクライナが貧窮にあえいでいるのは、ゴルバチョフがソ連を崩壊させたためだ」と考える人もあり、ことは単純ではない。
そしてウクライナはチョルノービリも抱える。

著者は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、2022年10月、本書の続編ともいえる『ウクライナ・ノート2 侵略の日誌』を刊行。邦訳はまだないようだが、いずれ出るのであれば読んでみたい。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1825 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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