紅い芥子粒さん
レビュアー:
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江戸から東京へ。変貌する都市の姿、時代の荒波にもまれながら懸命に生きる人々。樋口一葉、夏目漱石、泉鏡花など、13人の作家の小説や随筆が収められています。
女は家に縛られ、男に隷属して生きるものとされていた時代。女の運命を描いた、夭折した三人の女性作家の作品から。
北田薄氷「浅ましの姿」(1895年3月、『文藝倶楽部』)
吉原を見物する機会を得た作者の見聞録。作者は、客引きの男を憎みながらも、きらびやかな遊女たちには、親兄弟のために身売りに至った事情を想像し、深く同情します。自身は幼いころ人さらいにさらわれそうになったことを思い出し、あのときもしさらわれていたら、自分もここに……などと思い、ぞっとしたりもするのです。
作者の北田薄氷は、1876年生、尾崎紅葉に師事。24歳で病没(腸結核)。
田沢稲舟「医学修行」(1895年7月、『文藝倶楽部』)
財産家の娘として生まれた花江。才ある美少女でしたが、妾腹の子の哀しさ。本妻である養母に疎まれ、父親にもめんどうくさがられ、女医のもとに医者修行に出されます。花江は医者の仕事にはまったく興味がない。絵や読み物が好き。しかし、父親の命令に逆らうことはできない。女医の家で下働きをしながら医学校に通いますが、勉学をなまけ、学校もサボるようになります。花江を解放してくれたのは、東京をおそった大地震。三年の時が流れ、なぜか花江は女義太夫語りになっている。なんだかよくわからない展開ですが、小説というより戯作なのでしょう。
作者の田沢稲舟は、1874年生、山田美妙に師事。22歳で病没。
樋口一葉「十三夜」(1895年12月、『文藝倶楽部』)
ある夜、お関は婚家から実家に逃げ帰ります。良家の御曹司に一目ぼれされ、請われて嫁にいったのに、舅姑からは生まれ育ちが卑しいとさげすまれ、たのみの夫からも冷たくあしらわれる。耐え忍んで七年。ついにこらえきれきれなくなったのでした。離縁状を出してくだされと父に懇願するものの、辛抱せよと突き放されます。冷静になって考えれば、結婚は自分ひとりのものではない。弟のため、親のため、子のため、”家”のため…… お関は覚悟を決めて、実家を後にします。上野から駿河台へ。人力車に乗り、月明かりに車夫の顔を見れば、初恋の人、煙草屋のせがれだった録さんで…… 十三夜の月が、女の厳しい人生を照らし出します。
作者の樋口一葉は、1872年生、半井桃水に師事。24歳で病没(肺結核)。
収載されたどの作品にも、黎明期の東京の街の情景が書き込まれています。
泉鏡花「夜行巡査」(1895年4月、『文藝倶楽部』は、職務で夜の麹町を巡回する巡査の話。英国公使館、陸軍省、参謀本部などが建ち並ぶ街。主人公の巡査は、厳格に規律を守るあまり、温情の入り込む余地のない人。厳格なあまり、みすぼらしい身なりの老人を怒鳴りつけたり、行き場のない母子を追い払ったり…… その厳格さは、自分自身にも向けられ…… こっけい、しかし笑えない話です。
夏目漱石「琴のそら音」(1905年5月、『七人』)は、インフルエンザで寝込んだ婚約者のことが心配で心配でたまらなくなり、彼女の家に駆けつける話です。小石川の自宅から四谷の婚約者の家まで。夜明けとともに、雨上がりの道を、薩摩下駄をひっかけ、駆けに駆ける…… 当時、文壇は心霊ブームであったらしく、虫の知らせとか、凶兆とか、迷信とわかっていながら気になる心理を書いた、ちょっとユーモラスな小説。
他に収載された作品は、関健之「東京 銀街小誌(抄)」、北村透谷「漫罵」、川上眉山「大さかずき」、正岡子規「車上所見」、岡本綺堂「銀座の朝」、国木田独歩「窮死」、木下杢太郎「浅草公園」、永井荷風「監獄所の裏」
北田薄氷「浅ましの姿」(1895年3月、『文藝倶楽部』)
吉原を見物する機会を得た作者の見聞録。作者は、客引きの男を憎みながらも、きらびやかな遊女たちには、親兄弟のために身売りに至った事情を想像し、深く同情します。自身は幼いころ人さらいにさらわれそうになったことを思い出し、あのときもしさらわれていたら、自分もここに……などと思い、ぞっとしたりもするのです。
作者の北田薄氷は、1876年生、尾崎紅葉に師事。24歳で病没(腸結核)。
田沢稲舟「医学修行」(1895年7月、『文藝倶楽部』)
財産家の娘として生まれた花江。才ある美少女でしたが、妾腹の子の哀しさ。本妻である養母に疎まれ、父親にもめんどうくさがられ、女医のもとに医者修行に出されます。花江は医者の仕事にはまったく興味がない。絵や読み物が好き。しかし、父親の命令に逆らうことはできない。女医の家で下働きをしながら医学校に通いますが、勉学をなまけ、学校もサボるようになります。花江を解放してくれたのは、東京をおそった大地震。三年の時が流れ、なぜか花江は女義太夫語りになっている。なんだかよくわからない展開ですが、小説というより戯作なのでしょう。
作者の田沢稲舟は、1874年生、山田美妙に師事。22歳で病没。
樋口一葉「十三夜」(1895年12月、『文藝倶楽部』)
ある夜、お関は婚家から実家に逃げ帰ります。良家の御曹司に一目ぼれされ、請われて嫁にいったのに、舅姑からは生まれ育ちが卑しいとさげすまれ、たのみの夫からも冷たくあしらわれる。耐え忍んで七年。ついにこらえきれきれなくなったのでした。離縁状を出してくだされと父に懇願するものの、辛抱せよと突き放されます。冷静になって考えれば、結婚は自分ひとりのものではない。弟のため、親のため、子のため、”家”のため…… お関は覚悟を決めて、実家を後にします。上野から駿河台へ。人力車に乗り、月明かりに車夫の顔を見れば、初恋の人、煙草屋のせがれだった録さんで…… 十三夜の月が、女の厳しい人生を照らし出します。
作者の樋口一葉は、1872年生、半井桃水に師事。24歳で病没(肺結核)。
収載されたどの作品にも、黎明期の東京の街の情景が書き込まれています。
泉鏡花「夜行巡査」(1895年4月、『文藝倶楽部』は、職務で夜の麹町を巡回する巡査の話。英国公使館、陸軍省、参謀本部などが建ち並ぶ街。主人公の巡査は、厳格に規律を守るあまり、温情の入り込む余地のない人。厳格なあまり、みすぼらしい身なりの老人を怒鳴りつけたり、行き場のない母子を追い払ったり…… その厳格さは、自分自身にも向けられ…… こっけい、しかし笑えない話です。
夏目漱石「琴のそら音」(1905年5月、『七人』)は、インフルエンザで寝込んだ婚約者のことが心配で心配でたまらなくなり、彼女の家に駆けつける話です。小石川の自宅から四谷の婚約者の家まで。夜明けとともに、雨上がりの道を、薩摩下駄をひっかけ、駆けに駆ける…… 当時、文壇は心霊ブームであったらしく、虫の知らせとか、凶兆とか、迷信とわかっていながら気になる心理を書いた、ちょっとユーモラスな小説。
他に収載された作品は、関健之「東京 銀街小誌(抄)」、北村透谷「漫罵」、川上眉山「大さかずき」、正岡子規「車上所見」、岡本綺堂「銀座の朝」、国木田独歩「窮死」、木下杢太郎「浅草公園」、永井荷風「監獄所の裏」
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:0
- ISBN:9784003121719
- 発売日:2018年10月17日
- 価格:891円
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