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星落秋風五丈原
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「ぼくたちはおおすぎるのでやりました」のインパクトよ!
あなたは、夢を見る人ヨセフなのよ。悲劇的なドン・キホーテなのよ。時には、石を投げつけられる間にも、天国の開くのを見ることができた聖ステパノでもあるわ。

のっけからスーに言われるジュード。しかし、そう言うスーも、どこか頭でっかちで恋愛・結婚を考えている節がある。
あなたが好きですわよ!だけど、考えてみなかったんです、結婚っていうのが…好きだという以上のことだとは。男と女が懇ろな仲で暮らすのは、二人のどちらかが私のような気持を抱いているなら、どんな事情であれ、いくら合法的でも、姦淫ですわ。

あくまでもリチャードの妻であることをやめない。それでいて、ある時部屋にリチャードが入って来ると窓から飛び降りてしまうほど、彼を嫌がっている。一方ジュードに対しては、偶々泊まった宿が、かつてジュードとアラベラが宿泊したと知り、嫉妬する。そんなスーに、温厚なジュードも堪忍袋の緒が切れる。
君は何一つ僕に譲歩しないのに、僕は君に何もかも譲歩しなくてはならない。つまるところ、君はあのころ、ご主人と仲が良かったじゃないか
 

 うんうんわかるよジュード。蛇のナントカだよね。

振り回され夫リチャードは、年齢も経て挫折も知るからか、勝手なことを言うスーを理解し、彼女の希望を受け入れる。
私の家内じゃないよ。姓と法律の上は別として、他の男の妻なんだ。(中略)彼女への思いやりとして、法律上の束縛をすっかり解いてやるべきだということなんだ。(中略)彼女は人間同士として私に同情し、憐み、私のために泣いてくれはするものの、夫としての私には耐えられないんだー私を忌み嫌っているー遠回しに言ったってしょうがないからな-私を忌み嫌っているんだよ。
 

 これで望みは叶ったのだから、さっさと再婚すればいいものの、二人は今でいう事実婚を選ぶ。しかしこれは二人の合意ではない。結婚を望むジュードが、望まないスーに折れた形である。
スー、君は僕の同志で恋人なんだから、結婚するか他の道をとるか、強制したくなんかないよ‐もちろん、そんなことするもんか!そんなにすねるなんて、あまりにも意地が悪いよ!

あーあ、こんなええカッコしなければよかったのに。アラベラとの息子に加え、スーとの間に子供も生まれれば、村人はフツーでない親子をあれこれ噂し、果ては仕事まで失う。  
結婚について、私は今でも、これまでずっと感じてきたように感じているの。鉄の契約が、あなたの私への愛情や私のあなたへの愛情をかき消してしまうのじゃないかって、今までと同じように心配なのよ

現にあなたは自由な身だけれど、私はあなたを世界中の誰よりも信じているわ

そういいながらも元妻アラベラが現れたら、嫉妬せずにいられないスー。定まらない大人達を見ていた子供達が遂に行動を起こす。

私は今は結婚を違った風に見ているの。私の子どもたちは、このことを教えるために、私から奪い去られたのよ!アラベラの子どもがわたしの子どもを殺したのは、天罰です-正しき者が悪しき者を殺害したんだわ。どうすればいいのかしら!私はとても下等な人間なんです-世間一般の人たちと交わる価値もないのよ!


 「他人のために死ぬ」=犠牲になってくれたという考えが、そもそもイヤだ。自分の命は自分のものである。ましてや第三者がそのように考えるのは不快だ。傲慢とも思える。かくてその後の人生を犠牲と感じて生きていくスーと、その決断を止められなかったジュードは悲劇を迎える。自分の思いに自由であろうとすると、これほど窮屈な思いをしなければならなかった時代の物語。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。

トマス・ハーディ作品
カスターブリッジの市長
呪われた腕
日陰者ジュード〈上〉
テス〈上〉
テス〈下〉
狂乱の群れを離れて
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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