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星落秋風五丈原
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憧れのクライストミンスターになかなか行けないジュード
 メアリイグリーンで暮らすジュード・フォーレイは、最初から不憫だった。母親も亡くなり、父親も命取りの瘧にかかって亡くなる。身内といえば、パン屋を営む伯母のドルシラきりだ。なのに彼女すら、こんな事を言う。
神さまが、母さんや父さんと一緒に、役立たずのお前も連れてってくださったら、なんぼよかったか知れんわい

なんだってお前は、先生にクライストミンスターに連れていってもらって、学者にしてもらわなかったんだね。
 

 後者の先生とは、冒頭でジュードが引っ越しを手伝っているフィロットソンだ。リチャード・フィロットソン先生は大学卒業後クライストミンスターで聖職に就くつもりなので、メアリイグリーンを出ていく。てっきり前説のみの人かと思いきや、リチャードは主要人物の一人である。

あれは光の都市だ

あそこには知識の木が茂っている

人々の師たる人物が生まれ出るところ、かつ、目指すところだ

学者や宗教者がたてこもる城とも呼べるところだ


口々に人々が言うクライストミンスターの感想に、ジュードもまた憧れを抱き
あそこは、ぼくにふさわしい場所だろう

と思い始める。

 鳥追いをやっていて、害鳥のカラスにさえ餌をやってしまうような性格だから、ジュードには商売は向かない。ちょっとシャイだが先生もむいてそうだ。しかしどんなに渇望しても学問の道は彼に開かれない。

 そんな時養豚業を営むアラベラから、豚の陰茎を投げつけられる。肉体的快楽を求めるアラベラの登場として、陰茎は露骨な比喩だ。世間慣れしていない彼は、偽の妊娠話にあっさりひっかかり結婚。これがつまずきの始まりだ。
彼の理性や意思をまったくかまわず、彼のいわゆる高邁な目的など問題にもしないようで、ちょうど、手荒な教師が生徒の襟首を掴んで引っ立てていくように、一人の女の抱擁に向かって彼を引きずっていくのだった。その女にはなんの尊敬も抱かず、また、その女の生活には、郷里以外、彼の生活となんの共通点もないというのに。

 この後ジュードは憧れの従姉スー・ブライズヘッドと出会うが、彼女と彼の結婚のタイミングが合わなかったことで、この先タイミングがずれ続ける。そして教職を目指すスーに、ジュードがリチャードを紹介したことで、四角関係は見事完成。リチャードも未だ聖職に就けず、挫折した者の一人である。

想いのままに行動したいが規律に縛られるジュード&スー
想いのままに行動するアラベラ
4人中一番の“大人”リチャード 

 物語を振り回していくのはアラベラだ。小説としては悪女の役回りだが、現代感覚なら最も共感しやすいキャラクターだろう。翻弄されるジュードとスーがダブルヒロイン、リチャードはむしろ被害者だ。恋の邪魔者たるアラベラが消え、スーとジュードの結婚準備は整った!ところで上巻は幕。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。

トマス・ハーディ作品
カスターブリッジの市長
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日陰者ジュード〈下〉
テス〈上〉
テス〈下〉
狂乱の群れを離れて
    • マイケル・ウィンターボトム映画「日陰のふたり」
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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