efさん
レビュアー:
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これはかなり高品質のSFと見た!
陸秋槎と言えば『元年春之祭』という異色ミステリが出ているのですが、これは実は個人的には「もうチョイ!」でありました。その他、アンソロジーなどでも何か読んだような記憶もあるのですが……。
ということで、他の中華SF作家に比べるともう一つ記憶に定着していなかった方なのですが、本作を読んでみてびっくり! これは良いぞ~!!
と言う事で収録作品から何作かご紹介しましょう。
〇 物語の歌い手
まだ幼い修道女の姉妹が偶然ある吟遊詩人の歌を聞き、その詩人に惚れ込み、彼に贈り物を届けるために自分たちも吟遊詩人姉妹となり旅に出るという物語です。
彼女たちは修道院の門限があるのか、彼の歌を最後まで聞くことはできず、自分たちでその結末を作って歌い、演奏し始めたことから自らも吟遊詩人の技を身につけていくのですね。吟遊詩人を前面に出してきたファンタジー的作品でとても気に入りました。
〇 開かれた世界から有限宇宙へ
あるスマホ用ゲーム開発会社に勤める主人公は、別のプロジェクトのチームからアイディア出しを求められます。リソースの制約からそのチームが開発中のゲームでは星々が固定され、昼が突然夜になってしまうのです。これはいかんともし難いのですが、その理屈づけをしてくれという要求なのです。
〇 ハインリヒ・バナールの文学的肖像
オーストリアに住むバナール医師は文学にぞっこん入れ込んでおり、自ら作品を執筆するのですが、これがまた剽窃の塊みたいなシロモノで、どうにもならないものばかりなのです。でも意欲だけは満々で次から次へととんでもない作品を書き続け、果てはホーフマンスタールを目の敵にし始めます。さらにはようやく勃興してきた空想科学小説まで取り込む始末。
私、本作を読んでいて、ベルリンの実在の奇人、シェーアバルトを連想してしまいましたよ。彼の『永久機関』という作品は既にレビューしたのですが、あの狂気じみた熱量、完全に一人でハズしているのにそれに気付かない男、そんなところはバナール医師そっくりじゃありませんか! 実在の人物も織り交ぜた奇譚です。
〇 ガーンズバック変換
香川でネトゲ依存症対策条例が施行されたことに発想を得た作品だそうです。香川県では青少年に特殊な眼鏡をかけることが強制され、この眼鏡をかけるとスマホやその他動画を映し出す画面は真っ黒になって見えなくなるというシロモノなんです(怖っ)。
その規制をかいくぐろうとする少女とその親友の物語。
ガーンズバックって何だろう? と思って読んでいたら、何と、ヒューゴ賞のネーミングのもとになったヒューゴ・ガーンズバックだったのか!
余談ですが、各地の条例の中には私からすると「あほか? それは条例という法規で定める事柄か? どういう意味、効果があるのだ?」と思えるようなものがあって、時々情けなくなるんですが、これは私だけですかね?
〇 色のない緑
機械翻訳の行く末を描いた作品なのですが、私、これどこかで読んでいる! 何かのアンソロジーに収録されていると思うのだけれど、巻末解説を見てもその辺りの情報はありません(私も思い出せないのよ~)。
三人の女性が、それぞれの立場から機械翻訳というものに対し向き合うのですが、うち一人が自殺してしまったことからその理由を探すという物語でなかなか読ませます。
作者は(今でもなのかな?)日本在住らしく、日常会話程度なら日本語ぺらぺらなのだそうです。でも本書に収録されている作品には訳者がついているので、作品は中国語(もしかしたら英語?)で書かれているのでしょう。
日本の事情にも詳しいようで、道理で「これは日本人作家ではないのか?」と思ってしまうような書き振りでした。
私が「もうちょっと」と思ってしまった『元年春之祭』は歴史的な色付けが強く、そこに様々な知識をぶち込んできた作品でしたが、どうも巧く活かし切れておらずまた理屈先行で固いなぁと感じてしまったのですが、本書収録作品はそのような点が良い方に出たと感じましたし、『元年……』と比べると随分こなれてきたとも感じました。
着想も素晴らしく、もとより博識なのでしょう。それぞれの作品に注ぎこんできた情報量も非常に豊かです。作者はミステリよりもSF向きじゃないかな?(本人は本書までSFの単著がなかったと言っております。是非もっと書かれるべきです)。
ちなみに、私、本書についてはもっと前から気にはしていたのですが、いつもの通り、この百合的、ラノベ、アニメちっくな表紙絵を忌避して逃げておりました。まあ、実はこの表紙絵、確かに『ガーンズバック変換』の内容に沿う絵なので文句は言えないのですが……。
タイトルは「おおっ!」と響いていたので、表紙絵がもうちょっとラノベちっくじゃなかったらもっと早く手にしていたと思うんですけどねぇ。
いずれにしても、大変質の高い作品集だと評価します。
読了時間メーター
□□□ 普通(1~2日あれば読める):2023/05/28
ということで、他の中華SF作家に比べるともう一つ記憶に定着していなかった方なのですが、本作を読んでみてびっくり! これは良いぞ~!!
と言う事で収録作品から何作かご紹介しましょう。
〇 物語の歌い手
まだ幼い修道女の姉妹が偶然ある吟遊詩人の歌を聞き、その詩人に惚れ込み、彼に贈り物を届けるために自分たちも吟遊詩人姉妹となり旅に出るという物語です。
彼女たちは修道院の門限があるのか、彼の歌を最後まで聞くことはできず、自分たちでその結末を作って歌い、演奏し始めたことから自らも吟遊詩人の技を身につけていくのですね。吟遊詩人を前面に出してきたファンタジー的作品でとても気に入りました。
〇 開かれた世界から有限宇宙へ
あるスマホ用ゲーム開発会社に勤める主人公は、別のプロジェクトのチームからアイディア出しを求められます。リソースの制約からそのチームが開発中のゲームでは星々が固定され、昼が突然夜になってしまうのです。これはいかんともし難いのですが、その理屈づけをしてくれという要求なのです。
〇 ハインリヒ・バナールの文学的肖像
オーストリアに住むバナール医師は文学にぞっこん入れ込んでおり、自ら作品を執筆するのですが、これがまた剽窃の塊みたいなシロモノで、どうにもならないものばかりなのです。でも意欲だけは満々で次から次へととんでもない作品を書き続け、果てはホーフマンスタールを目の敵にし始めます。さらにはようやく勃興してきた空想科学小説まで取り込む始末。
私、本作を読んでいて、ベルリンの実在の奇人、シェーアバルトを連想してしまいましたよ。彼の『永久機関』という作品は既にレビューしたのですが、あの狂気じみた熱量、完全に一人でハズしているのにそれに気付かない男、そんなところはバナール医師そっくりじゃありませんか! 実在の人物も織り交ぜた奇譚です。
〇 ガーンズバック変換
香川でネトゲ依存症対策条例が施行されたことに発想を得た作品だそうです。香川県では青少年に特殊な眼鏡をかけることが強制され、この眼鏡をかけるとスマホやその他動画を映し出す画面は真っ黒になって見えなくなるというシロモノなんです(怖っ)。
その規制をかいくぐろうとする少女とその親友の物語。
ガーンズバックって何だろう? と思って読んでいたら、何と、ヒューゴ賞のネーミングのもとになったヒューゴ・ガーンズバックだったのか!
余談ですが、各地の条例の中には私からすると「あほか? それは条例という法規で定める事柄か? どういう意味、効果があるのだ?」と思えるようなものがあって、時々情けなくなるんですが、これは私だけですかね?
〇 色のない緑
機械翻訳の行く末を描いた作品なのですが、私、これどこかで読んでいる! 何かのアンソロジーに収録されていると思うのだけれど、巻末解説を見てもその辺りの情報はありません(私も思い出せないのよ~)。
三人の女性が、それぞれの立場から機械翻訳というものに対し向き合うのですが、うち一人が自殺してしまったことからその理由を探すという物語でなかなか読ませます。
作者は(今でもなのかな?)日本在住らしく、日常会話程度なら日本語ぺらぺらなのだそうです。でも本書に収録されている作品には訳者がついているので、作品は中国語(もしかしたら英語?)で書かれているのでしょう。
日本の事情にも詳しいようで、道理で「これは日本人作家ではないのか?」と思ってしまうような書き振りでした。
私が「もうちょっと」と思ってしまった『元年春之祭』は歴史的な色付けが強く、そこに様々な知識をぶち込んできた作品でしたが、どうも巧く活かし切れておらずまた理屈先行で固いなぁと感じてしまったのですが、本書収録作品はそのような点が良い方に出たと感じましたし、『元年……』と比べると随分こなれてきたとも感じました。
着想も素晴らしく、もとより博識なのでしょう。それぞれの作品に注ぎこんできた情報量も非常に豊かです。作者はミステリよりもSF向きじゃないかな?(本人は本書までSFの単著がなかったと言っております。是非もっと書かれるべきです)。
ちなみに、私、本書についてはもっと前から気にはしていたのですが、いつもの通り、この百合的、ラノベ、アニメちっくな表紙絵を忌避して逃げておりました。まあ、実はこの表紙絵、確かに『ガーンズバック変換』の内容に沿う絵なので文句は言えないのですが……。
タイトルは「おおっ!」と響いていたので、表紙絵がもうちょっとラノベちっくじゃなかったらもっと早く手にしていたと思うんですけどねぇ。
いずれにしても、大変質の高い作品集だと評価します。
読了時間メーター
□□□ 普通(1~2日あれば読める):2023/05/28
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幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784152102126
- 発売日:2023年02月21日
- 価格:2310円
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