永遠と横道世之介　下

吉田修一作「永遠の横道世之介　下」を読みました。

【三月　世之介桜】大福は世之介に、谷尻がカフェの彼女にプレゼントした南郷の写真集は彼女に受けて今度食事を一緒にする事になったと言い、世之介は喜びました。大福は彼女に受けるように谷尻にサーフィンを教えてやれと世之介に言いました。実は二千花と付き合っていた頃鎌倉に住んでいた関係で世之介はサーフィンが得意だったのでした。エバは咲子との間に子供が出来たと打ち明け。。。

世之介は秩父で礼二とムーさんとキャンプをし、折柄降って来た大雨を見てキャンプを撤収して引き返しました。しかし山道で礼二と世之介が転落死、ムーさんは助けを求めに一人で下山しました。濁流の前で死を覚悟した二人でしたが、なんとか助けが。。。ドーミーの面々は花見に行き、3人はその時の事を回想していました。満開の桜を見ながら世之介は、毎年こうであったら幸せだろうなと思い、そういえばいつもこんな風に思っていたのだと思い当たりました。最も印象的だったのはやはり二千花と見た鎌倉の桜でした。実は出会った頃既に二千花は余命宣告されており、その直後に二千花は世之介と出会ったのでした。

世之介は初めて訪れた宝徳寺の庭の桜の一本が弱っているのではないかと二千花に尋ね、二千花は驚きました。確かにその桜はもう庭師に切ろうと言われていた桜だったのでした。それを住職の真妙が世之介に告げると、世之介は激しく動揺し、この桜を大事にするために名前を付けようと提案し、なんとなく世之介の味方をしたくなった二千花は世之介桜と名付けようと言い。。。深夜それを思い出した二千花は大笑いし、ほんとにヘンな人だと思いました。

二週間後また寺に現れた世之介は、大量に寺に集められた寄付されたおもちゃを見てこれは何かと尋ね、シングルマザーの家庭の子にサンタがプレゼントして回るのだと真妙が答えると、世之介は一時間考えて、自分もサンタになりたいと言い、また殆どの人のように当日ドタキャンするのかと二千花は思いましたが、世之介は実際に当日現われ。。。世之介は4月だと言うのに谷尻にサーフィンを教えようと湘南に出掛けました。なんと一歩が同行を申し出、海を見た2人の青年は興奮し。。。

【四月　ビッグチャンス】体調のすぐれない二千花は実家の二階の自室で両親と世之介が下らない話題で盛り上がっているのを聞いていました。サンタのバイトを終えた世之介はその頃毎週のように東京から鎌倉に来て二千花の実家に入り浸っていました。二千花はまだ自分の余命が2年である事を世之介に言えず、告白されたらどうしようと困っていました。しかし能天気な世之介は、二千花の親友凛子に取り入ってサーフボードを手に入れ、凛子にサーフィンを習うと言い出しました。実は凛子から二千花の歴代の彼氏はみなサーファーだったと聞いたからでした。いよいよ余命の事を告げようとすると世之介は意外な事を言い出し。。。

ドーミーの面々は世之介のサーフィン教室の動画を見て盛り上がっていました。そんな中、咲子が一歩の部屋で笑っていました。世之介が顔を出すと咲子は一歩は絵がうまいのだと嫌がる一歩を抑えて世之介にスケッチブックを見せました。実に良い絵でした。鎌倉の谷尻くんという絵本仕立てのサーフィン教室の絵でした。咲子は一歩の夢は絵本を出版する事だとばらし、自分と子供の事を絵本にしてくれと一歩に頼みました。。。

室田は世之介の写真は大層評判が良いと言って連載継続を告げ、更にページを増やして連載のタイトルに世之介の名前を入れると言いました。喜んだ世之介は長崎の実家に報告しました。。。

【五月　恋と鎌倉と少年】世之介は仕事も断って引き籠っているという南郷に連載の事を報告に行きました。すると南郷は涙を流して喜び、そろそろ自分も引きこもりをやめて働こうかと言い出しました。。。谷尻のサーファー修業はなかなか進みませんでしたが、彼女からお洒落なホームパーティに誘われて喜びました。しかし野暮ったい谷尻がそんなパーティーに参加してどうなるのかと世之介は危惧し。。。しかし谷尻は楽しかった模様で。。。

エバは世之介に子供の名付け親になってくれと頼み、子供は娘だと言いました。悩んだ世之介はついに。。。更にエバは、世之介と二千花が結婚式の真似事をした結婚式場を教えてくれと頼みました。結婚式の真似事とはそもそも世之介が軽々しく。。。

【六月　夏越しの大祓】二千花が世之介に余命の事を告げたのは、世之介がサーフィンの練習をしていた時でした。驚いた事に世之介は。。。思わず二千花は。。。

突然南郷が世之介を訪れ、仕事がうまくいかないがこういう時はどうすれば良いのだと尋ねました。世之介はリラックスする事だと答え、この世で一番カッコいいのはリラックスしている人だ、売れていた頃の南郷はリラックスしていなかったから少しも羨ましくなかったと言いました。その話を聞いていた一歩も南郷と同じような顔をしており。。。南郷は食堂に貼ってあった一歩の絵を見て絵本編集者に紹介してやると言って帰りました。そういえば二千花にもサーフィンをしながら同じ事を言ったと世之介は思い出し。。。

世之介は大福と夏越しの大祓の茅の輪くぐりに行きました。大福は谷尻が彼女に振られたと言い、しかしそれでもサーフィンを続けた谷尻は次第にサーファーらしくなって行き、大学で急にモテ出したのだと大福は言いました。いよいよ夏がまた始まるのでした。。。

【七月　新しい命】世之介と凛子は、訳ありの児童を預かる保護施設の遠足の手伝いから戻って宝徳寺でくつろいでいました。凛子は、真妙がこういうボランティア活動を始めたのはみな二千花の思いつきだったと言い。。。亡くなる少し前に二千花は世之介とサーフィンに行きました。すっかり体力の落ちた二千花でしたが、見守る世之介の視線を感じて二千花は。。。

咲子は急に産気づきました。しかし容体は悪く、医師は母子共に危険な状態だと告げ、エバと世之介は激しく動揺しました。ドーミーの面々が気を揉む中、あけみと一歩は近所の神社でお百度を踏み始め。。。面々も神社に集まり総出で。。。ようやく咲子は出産し、世之介はエバに娘の名前を。。。

【八月　永遠と横道世之介】世之介は数年ぶりに長崎の実家に戻り、精霊船の飾りつけを手伝っていました。精霊船は長崎の伝統行事で、ワゴン車くらいの船を飾りつけ、亡くなった人を浄土に送る行事でした。参加する人々は花火や爆竹を打ち鳴らし、狂乱状態で船を海に送り出すのでした。実は二千花が亡くなった翌年、世之介は二千花の小さな精霊船を二千花の両親と3人で送り出したのでした。物凄くはしゃいでいた二千花の両親を初めて見た世之介でした。。。

二千花が亡くなる少し前、深夜病院から無断外出してきた二千花は世之介を誘ってベスパで茅ヶ崎へドライブしました。夜の海を見ながら二千花は、気持ちの良い夜だと言い、こんな夜があったんだと思えばそれで自分の人生は満足だと言いました。世之介は今晩の病院食は何だったと聞きながら二千花にキスし、キスするならさっきだったろと思いながら、二千花は、世之介はこういう人なんだと納得しました。実はその夜が最後の。。。

ドーミーの面々は、エバ夫婦の騒動の疲れを癒そうと鎌倉小旅行に出掛けました。面々は勝手に鎌倉を観光し、あけみと世之介は二千花の墓参りをしました。夜はみんなでBBQをし、世之介は花火を持って谷尻達を追いかけ回しました。その様子を眺めていたあけみは、世之介を独り占めには出来ないのだと思い、きれいにされていた二千花の墓を見たあけみはきっと二千花はみんなに大事にされていたし、世之介を本当に必要としていたのだと気づいたのでした。。。あけみは世之介に呟きます。今日は良い一日だった、こんな日が人生にあれば自分の人生は大満足だと。。。

【十五年後】十五年後、ドーミーの面々達はそれぞれの道を。。。

小説の天才吉田先生が三作かけて描き続けた横道世之介とはどういう人物だったか？彼は決してノーと言わない人でした。リラックスこそが人生の要諦だと言ってさまざまな人々と関わって自分も変遷しながら周囲を変えて行く人でした。さまざまな人間を鼓舞しながら、周囲の人々に、世之介を見ていると自分はまだ底辺ではないと言われるような暮らしを続け、しかもその暮らしを幸せそのものだと考えていました。

しかも若くして限られた余命の二千花と巡り合い、最後に彼女を癒した世之介は、二千花を失った後も前向きな暮らしを続け、二千花を思い続けながらも最後まで生きる事を諦めなかったのでした。世之介の周囲の人達はそんな世之介の人生に最後にスポットライトを当て、彼の人生を総括します。最後は涙無くしては読めない名作でした。かの宮沢賢治が描いた雨ニモマケズに対する、吉田先生の一つの答えとなった作品ではないかと思いました。