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morimoriさん
morimori
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「長福丸様の御口代わりだけを務めねばならぬ」小姓に任じられた兵庫は以後、長福丸(家重)の通詞として側に仕えた。
 誕生時へその緒が首に巻き付いていたことが原因で、手足に不自由があり成長しても口がきけず誰一人長福丸(家重)の言葉を理解できずにいたがある日、家重の言葉を理解できる者が現れた。大岡忠相のはとこの男児兵庫(忠光)は、長福丸御目見えの際に言葉を交わしたことで小姓を務めることになった。父親の吉宗を始め、誰も言葉を理解できず癇癪を起すことの多かった長福丸の様子が変わり周囲の者は驚くが、中には本当に言葉を理解しているのかと疑心暗鬼になる側近の存在もあった。家重は廃嫡と噂され、蔑まれ、忠光は老中たちに疑念を抱かれ、心ない言葉をかけられながらも将軍になって政を行っていく。

 自分の言葉が誰にも伝わらず、言いたいこともわかってもらえない状況の中でたったひとり、自分の言葉に返事が来たとしたらどんなに嬉しいことだろう。徳川8代将軍吉宗を父に持ち、物心ついた時には母は亡くなり、優秀な弟の存在がありさらに嫡男でありながら廃嫡の噂さえ流れてくる状況の中、家重はどれほど辛い日々を過ごしたことだろう。明日に希望を持つこともできず、ただひとり心閉ざしていたに違いない。

 徳川将軍15人すべてを知っている訳ではなく、家重のこともこの作品を読むまでは全く知らなかった。家康の再来と言われた吉宗の嫡男でありながら、弟宗武こそが次期将軍と噂される状況の中で兵庫との出会いは大きな喜び、希望となったのではないか。いや、純粋に言葉が通じる相手が現れたのは嬉しかったに違いない。しかし、本当に家重の言葉を忠光が伝えているのかと疑念を抱く老中の存在や企みが二人をどんなにか傷つけているか。自分の腹に一物ある者ほど、疑念を抱くのかもしれないが。

 直木賞候補になったこの作品、非常におもしろく読み終えたのに受賞が叶わず残念。幼名と成人後の名前、老中の名前を覚えきれず時々ページを戻ったりもしたが、歴史小説として充分に楽しむことができた。
 
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morimori
morimori さん本が好き!1級(書評数:951 件)

多くの人のレビューを拝見して、読書の幅が広がっていくのが楽しみです。感動した本、おもしろかった本をレビューを通して伝えることができればと思っています。

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