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たけぞう
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ああ、桃を煮てみたい。焦げちゃったとしても。
最高ですね。この人の作る文章には、いつも揺さぶられてしまいます。初めて読んだ作品は、ショートカット先「氷柱の声」です。残念ながら芥川賞受賞とはなりませんでしたが、その後に何冊か読み、著者は非凡な才能を持っているだろうと確信しました。
この本はエッセーなので、なんてことのないオモシロ系の一冊なのですが、わたしにはなぜか深く刺さるものがありました。著者の魅力をうまく言語化できず、もどかしい限りです。

わたしを空腹にしないほうがいい、というエッセーの続篇的な一冊です。食べものにまつわる話でまとめられています。全四十一話、つまり四十一食の話があるのでして。

著者は、前作のエッセーの影響で、美食家と誤解されていて困ると書いています。読者の中に、著者が食に詳しくて、常にいろいろな場所でおいしいものを食べていそうと思っている人が多いと書きつつ、食に詳しいのは知人や友人たちで、そもそも著者は一人では外でご飯を食べられないのだと言います。この話、わたしは結構好きです。
仕事で旅先に行った時は、行き先の近くに住む人に連絡をとり、一緒に食事をするのを楽しみにしています。誰もつかまらなければ、泣く泣くコンビニのカップラーメンにする、しかも日清のシーフードヌードルとまで決めているのです。

大阪に行った時のことです。共作の絵本の原画展に来てくれた人が、親切に大阪のお薦めのお店をメールしてくれました。著者は一緒に行く人を探しますが、残念ながら予定が合いません。勢いあまって、お店を教えてくれた人に一緒に食べませんかと返信してしまったのです。その人は仕事を定時で切り上げるやいなや、驚いてすっ飛んできました。もう一人、原画展を見てくれた編集者らしき人にも連絡をとり、三人でお好み焼き屋さんに行きました。呼ばれた人は、信じられない気持ちで、幸せそうでした。

著者は、おいしいものを食べることを誰かと共有したい人なのです。これおいしいねと一緒に楽しまないと落ち着かないようです。面白いですね。その気持ち、分かりますとも。とはいえ、ほとんど初対面の人を呼び出すとは、著者だから成立したことですよね。究極の無茶ぶりです。

この精神性が、著者の魅力の原動力かなと思いました。
桃を煮るひとの話を読むと、桃を煮たくてたまらなくなります。煮た経験なんてないのに。焦げちゃったという話は、残念感がありつつも、てへへという空気にうっとりするという著者のセンスに脱帽します。

なんだかんだで天然の愛されキャラの人なのでしょうね。とても楽しく読めました。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1467 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

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この書評へのコメント

  1. マーブル2023-08-27 11:31

    >この精神性が、著者の魅力の原動力かなと思いました。

    魅力であり、心配しちゃう危うさです。危ない人についていかないよう祈っています。

  2. たけぞう2023-08-27 12:06

    >マーブルさん
    心配しちゃう危うさ、なるほど、ぽんと膝を打ちましたよ。素晴らしいコメントありがとうございます。

  3. マーブル2023-08-27 14:05

    こんなこと本に書いちゃったら変なメール来ちゃうじゃん!
    と心配しちゃうわけです。毎回何かしら心配しています。
    その辺のスキというか、さらけ出し加減が魅力なのだろうと分かってはいるつもりですが、どうにも。

  4. No Image

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