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ときのき
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ゼロから始める作文生活
 私は去年の秋ごろにこの場所への投稿を始めた。他サイトでも読んだ本の備忘録として二百字程度の短い感想を書くことはしていたけれど、まとまった長さの文章を書くようになったのはここで書くようになってからだ。というわけで、いまだに何をどの程度書き、もしくは書かないかについては迷うところがある。
 文体ひとつとっても、かしこまったですます調でいくか、批評家風に少し気取るか、穏健な書斎派になりきってやさしく猫の背でも撫でながら文学への愛を情感たっぷりに語るか、ざっくばらんに読み手の肩をぱんぱん叩いて打ち明け話満載の気さくな隣人ムーブを仕掛けるか、はたまた……実際にそんな自在に文章が操れるかは別にして、どのように書けばいいのか、自分なりのものでしかないとしても今後の方針になるような“正解”があるに越したことはないだろう。
 “正解”を知るには既に何事かを体得したかに見える先人の知恵を借りるのが手っ取り早い。その代表ともいえる職業作家の書いた書籍であれば、然るべき書き方を教えてくれるのではないだろうか、と考え本書を手に取った。


 以上が、本書を読み終えた私が書いた、「私が本書を読むに至った経緯」という作文だ。
 
 本書はベテラン作家による作文指南の本だ。 “作文が年々苦手になってきて”いる著者が、“書くことはないし、書きたいとも思わない”“言いたいこともべつにない”という状態から、それでも仕事として文章をひねりだすまで、どのような手順を踏んでいるか、そのプロセスが自身の経験に基づいて書かれている。
 
 “書くこと”の見つけ方から丁寧にアドバイスしてくれるので、自由に書いてよいといわれても何を書けばいいのかわからない、というひとであっても何かしらの文章が作成できるようになる。私が冒頭の文章を書けたのも、本書にある、“作文のテーマは何でもいい”“友達に話したいと思うことをテーマにする”を実践したからだ。

 著者は、「家賃が高いからPB(プライベートブランド)とうまい棒しか食べていない。でもべつに不満はない」という、そのまま書けば二行で終わる上ひどく他愛なくみえる内容を、手順を示しながら実際に作文サイズまでひろげてみせる。このくだりは短いが非常にわかりやすいレクチャーだ。それこそ駄菓子でもつまみながら、肩の力を抜いてアイディアをまとめていく感じも。

 第9章のタイトルは「作文に正解はあるか」。だが本書は、最終的にこの問いに著者が正解を示すような形ではまとまらない。書きあぐねる読者の背中を押して、文章を書くことの大海へ読者それぞれが漕ぎだし、各々にとっての意味を見つけられるよう助ける。
 ユニークで刺激的な文章読本だ。
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

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