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星落秋風五丈原
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黒トレヴァー降臨! 鬼っ子が全てをかき回していく話
 イングランド・ドーセットの海辺の町ディンマス。復活祭を前に人々の生活は活気づいている。信者が減り続けて教会の修繕費用も捻出できず、運営に悩む若い牧師夫婦区ウェンティンとラヴィニア・フェザーストーン。まだ寒いのに、海水パンツ一丁で海岸を徘徊する退役軍人ゴードン・アビゲイル大佐とその妻イーディス。息子ネヴィルに家出されたダス夫妻。互いの親が再婚して同居するようになったスティーヴンとケイト。タレント発掘番組に出演することを夢見る孤独な少年ティモシー。やがて彼は悪魔的な言動で人々の平和な生活の裏に潜む欲望・願望・夢を暴き出していく。

p5からp8までのディンマスの描写が素晴らしい。微に入り細に入り小説のお手本のような描写だ。まるで本当にある街のようだが、架空である。英国国教会もカトリックの教会もあり、ホテル、民宿、銀行、酒場、映画館、学校など一通りの設備は揃っている。観光客も来るが、大抵は地元の人達が暮らしている。さて、その中で気になる記述がある。
ディンマスの子供たちもよその子供たちと同じで、みんな空想の中にも生きていて、大人よりずっと頻繁に旅をしていた。

さて、その空想の中身は?旅とは?

 『ピーターと狼』は嘘ばかりついていたピーターが因果応報の憂き目にあう物語だ。最初は「狼が来た!」というピーターの嘘を信じたものの、回を重ねるうちに、誰も信じなくなる。では、それが逆だったら?

 ティモシーは関係のない人の葬儀ばかりか、街の様々な場所に現れて、自分が見たことを話し、引き換えに願いを叶えてもらおうとする。話す相手を選んでいるのか、また、話を聞いた人がどんな思いをするかまで、わかって話しているかは定かではない。本編では、ティモシーが“子供”である点がポイントだ。大人達は皆不快に思いながらも、“子供だから“何もわからず話している可能性を捨てきれない。大人ならばもっと徹底的に怒り、交際を断ったが、“子供だから“無碍に断れない。彼は可哀想な“子供だから“猶更だ。しかし、誰も彼の内面を知ろうとせず、本気で叱る人もいない。常に笑顔で人々の言葉をやり過ごすが、それぞれを吟味しているように見えない。想像力だけが彼を救う。翻せば現実は彼を救わない。彼が現世を地獄に作り上げたように見えるが、彼もまたその地獄の住人なのである。

 1976年ウィットブレッド賞を受賞。

ウィリアム・トレヴァー作品
聖母の贈り物
ふたつの人生
アイルランド・ストーリーズ
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2325 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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この書評へのコメント

  1. ef2023-05-18 06:03

    なるほど、参考になりました。この本、近隣図書館蔵書には無かったので、現在他館取り寄せ中なんです(そろそろ来ないかなぁ)。

    以前から五丈原さんの本のチョイスって被るなぁ(笑)と思っていましたが、ここでもまた!(某〇〇メータでも時々高相性で登場されますよね:笑)。いや、きっと二人共趣味が良いんだ!

  2. 星落秋風五丈原2023-05-18 07:00

    efさんみなさんこんにちは。
    そうですね。
    『エッフェル塔~創造者の愛~』も被りましたし感想もまあ似たようなものです。映画のノベライズなのであんな風なんだろうなと思います。原題もEiffelその人でしたし。

  3. No Image

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