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ぱせりさん
ぱせり
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滑稽で、やがて悲しきフリークショーのよう
中編『悲しき酒場の唄』と他七つの短編が収録されている。
ほとんどの作品の主人公たちはとんでもなく切羽詰った状態に陥る。このあとどうなるのだろうと思いながら読んでいる読者は、あっさりと放り出されてしまう。
だけど、そうなって初めてもう一度主人公の来し方を振り返ってみることができる。のっぴきならない状態は、少しグロテスクで、それから滑稽で、悲しいような愛おしいような気持ちにさせる。


ことに好きなのは『悲しき酒場の唄』だ。
舞台になるのは、アメリカ南部のわびしい小さな町の、ただ一軒の酒場だ。酒場兼雑貨屋兼、非公式なクリニックでもある。
主なる登場人物は三人。あとは野次馬。
この酒場の主で、筋骨たくましいミス・アメリア。
突然この町に現れた自称ミス・アメリアのいとこだというライアン。
過去ミス・アメリアと十日間だけ結婚していた極悪人マーヴィン・メイシー。
この三人は、うんと雑に言ってしまえばみんな変人で、三角関係で、相手のことを(自分なりのやり方で)愛しているのだと思う。そして、この三角関係を逆に回せば、自分を愛している人間を憎んだり、ひどく邪険に撥ねつけたりしている。
なぜ、そんな相手に執着するのか、と言いたくなる。あなたに相応しい相手ではないよ、と言いたくなる。でも余計な御世話みたい。
互いにしっぽを追いかけてぐるぐるまわっているような三人は、こっけいな姿の怪物のようで、「やがて悲しき」のフリークショーを見ているようでもある。
読者もおおいに振り回され、挙句の果てに物語の外に放り出されるような気がするこの物語に、私はなぜ惹かれてしまうのだろう。わたしも、もしや怪物たちの仲間で、つれない人たちに片思いしているのだろうか。


酒場と酒場の常連たちを取り囲む舞台の、南部の田舎町の情景が好きだ。
真夏の夕方、道路に二センチ半も積もった埃が金色に燃えている様、月の光に照らされたねじくれた桃の木や、沼地からたちあがる蚊のぶーんという眠そうな羽音……一度も行ったことがない街なのに、そして、ちっともきれいじゃない様相なのに、懐かしいような気持ちになる。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1750 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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