そうきゅうどうさん
レビュアー:
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人口の半分から闘争心を奪い、従順な奴隷にするにはどうすればいいか。おまえは奉仕するために生まれてきたのだと教えこむ。繰り返し教えれば、やがてそれを唯一の真実として生きるようになる。(p.309)
宇宙から襲来するという謎の敵、混沌(フンドゥン)の攻撃を受け、版図を奪われている人類は、その混沌の亡骸から巨大戦闘機、霊蛹機(れいようき)を作り出した。霊蛹機は男女一対がパイロットとして乗り込み、座席に仕込まれた鍼(はり)を脊椎に刺して機体と一体化した、その2人の気の力で操作、変形し、戦う。だが妾女(しょうじょ)と呼ばれる女子パイロットの多くは、1回の戦闘で気を食い尽くされて死ぬ。そんな霊蛹機の妾女パイロットに武則天(ウー・ゾーティエン)は志願する。1つには自分がそうして身を売れば、実家が十分な補償を受けられるから。だがそれ以上に、彼女には自らの死と引き換えにしても成し遂げなければならない重要な目的があった。そこで彼女が知る霊蛹機の真実、そして世界の真実とは?
私は普段はあまりSFを読まないのだが、この『鋼鉄紅女』は作者のシーラン・ジェイ・シャオが日本のオリジナルTVアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス(ダリフラ)』に影響を受けて書いたというのを見て、読んでみる気になった。私も『ダリフラ』が大好きだったから。
『ダリフラ』を知っていると、ジャオがそれをどのように『鋼鉄紅女』へと換骨奪胎したかがよく分かる。が、それ以上に本作の構成要素には中国の歴史や風俗、中国哲学の要素がふんだんに使われている。例えば、諸葛亮、司馬懿、李世民、朱元璋といった登場人物が出てくるし、武は纏足の痛みにしばしば苦しむ。また、本作には今の中国の政治体制への批判とも皮肉とも取れる箇所も多数ある。それは(著者紹介によると)ジャオが幼少期にカナダに移住していて、中国国内にいないからこそ可能なのだと思う。それでも作品の冒頭に掲げられた
それと合わせて、上に述べた粗筋からも分かるように、本作の大きなテーマにジェンダー問題がある。則天はただ「女である」という理由だけで男子パイロットからも軍師と呼ばれる軍所属の兵法家からも見下され、消耗品のように扱われる。例えば、則天から「なぜ女を憎むのか?」と問われたある登場人物(男)は、こう反論する。
また、私は上で本作は『ダリフラ』の影響を受けて書かれたと述べたが、実は本作には『ダリフラ』だけでなく日本の数多のマンガ、アニメの影響が色濃く滲んでいる。何よりそれが明確に分かるのがラストだ。これは一応サプライズエンディングなのだが、日本のマンガやアニメではお馴染みのもので、それを踏まえればサプライズどころかむしろ極めてテンプレ的なラストだとも言える。だから、この物語はマンガやアニメを見慣れている人間には、ある意味心地よく、ある意味物足りない。
私は普段はあまりSFを読まないのだが、この『鋼鉄紅女』は作者のシーラン・ジェイ・シャオが日本のオリジナルTVアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス(ダリフラ)』に影響を受けて書いたというのを見て、読んでみる気になった。私も『ダリフラ』が大好きだったから。
『ダリフラ』を知っていると、ジャオがそれをどのように『鋼鉄紅女』へと換骨奪胎したかがよく分かる。が、それ以上に本作の構成要素には中国の歴史や風俗、中国哲学の要素がふんだんに使われている。例えば、諸葛亮、司馬懿、李世民、朱元璋といった登場人物が出てくるし、武は纏足の痛みにしばしば苦しむ。また、本作には今の中国の政治体制への批判とも皮肉とも取れる箇所も多数ある。それは(著者紹介によると)ジャオが幼少期にカナダに移住していて、中国国内にいないからこそ可能なのだと思う。それでも作品の冒頭に掲げられた
本書は歴史ファンタジーや改変歴史物ではなく、未来の物語である。(中略)特定の時代を正確に描くことは目的にしておらず、正しい歴史を知るにはノンフィクションの資料にあたってほしい。という注意書きには、よくある「これはフィクションであり、特定の人物、事件等とは関係ありません」といったテンプレ的な断り書き以上のものを感じさせずにはいられない。
それと合わせて、上に述べた粗筋からも分かるように、本作の大きなテーマにジェンダー問題がある。則天はただ「女である」という理由だけで男子パイロットからも軍師と呼ばれる軍所属の兵法家からも見下され、消耗品のように扱われる。例えば、則天から「なぜ女を憎むのか?」と問われたある登場人物(男)は、こう反論する。
「女性を憎む? ばかな! 女がいなくては世界は動かない。だれが子を産み、飯を炊き、服を縫い、寝床を暖めるというのだ? 役割はもっとある。いいか──(中略)女性全般を憎む者などこの世にいない。言うことを聞かない女が嫌いなだけだ。ルールを破って平気な女が嫌いなだけだ。武パイロット、きみはどちらだ?」(p.381~382)だが、女を卑賤なものと見なして差別するのは男ばかりではない。
この足を砕いたのは祖母だ。弟に嫁をもらう婚資のために娘たちを妾女パイロットして入隊させたのは母だ。どこの娘が行き遅れだと井戸端会議で噂するのは村のおばさんたちだ。自分たちは夫のことをさんざん愚痴るくせに。そしてどこかの若い嫁が男児を出産すると祝福してやまない。自分たちは女なのに。だから則天はそれに抗う。そう、これは辺境出身のただの娘、武則天が則天武后になる物語なのだ。
人口の半分から闘争心を奪い、従順な奴隷にするにはどうすればいいか。おまえは奉仕するために生まれてきたのだと教えこむ。弱者で、社会の餌食だと教えこむ。
繰り返し教えれば、やがてそれを唯一の真実として生きるようになる。(p.309)
また、私は上で本作は『ダリフラ』の影響を受けて書かれたと述べたが、実は本作には『ダリフラ』だけでなく日本の数多のマンガ、アニメの影響が色濃く滲んでいる。何よりそれが明確に分かるのがラストだ。これは一応サプライズエンディングなのだが、日本のマンガやアニメではお馴染みのもので、それを踏まえればサプライズどころかむしろ極めてテンプレ的なラストだとも言える。だから、この物語はマンガやアニメを見慣れている人間には、ある意味心地よく、ある意味物足りない。
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「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp
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- 出版社:早川書房
- ページ数:0
- ISBN:9784150124083
- 発売日:2023年05月23日
- 価格:1650円
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