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darklyさん
darkly
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中国における暗黒の時代、極限の状況においての人間の本質と光を描いた力作。当然中国本土では発禁です。
黄河のほとりの第九十九更生区は所謂知識人と呼ばれる人々が収容されている。西洋に毒されたという罪人たちが「こども」という管理者の指示のもと農作業に従事している。「こども」はその上位者により農作物の生産性のノルマを与えられ、それを達成するべく罪人たちをアメとムチにより統治しようと、何らかの貢献があった者に褒美の印を与え、それがたまれば自由を与えるというシステムを考え出した。

やがて国家の方針が変わり、国を挙げて鋼鉄を生産するように第九十九更生区にも指示がくる。炉のために木は切り倒され環境破壊の末、大飢饉に見舞われる。極限状況の中、知識人と呼ばれた人たちもその矜持を失い、生きるために何でも行うようになる。

知識人の迫害と言えば、中国の歴史には詳しくない私でも「文化大革命」を想起します。この物語はそれと共に「大躍進運動」という中国共産党の大失策をモデルとしていることは内容からみて明らかです。国からの非現実的な目標に対して、中間管理職である「こども」は可能であると答えざるを得ず、それに対して罪人たちもできないとは答えられない。もちろん結果は火を見るより明らかです。

物語の推移についてはモデルの結末の通り、まったく救いようがないものですが、唸らされた設定があります。「こども」という名は「純粋で悪人ではないが知識もなくお上の権威を盲目的に信じる人間」を表す一般名詞と考えられます。主人公の「作家」や「学者」「音楽」「宗教」等知識人たちはこの馬鹿馬鹿しい政策に面従腹背であったけれども、飢饉の中でその矜持を失っていき、生存本能が剥き出しになっていくのに対し、逆に「こども」は罪人たちから取り上げた禁書を読むうちに知識人あるいは宗教人となっていき、自らの人生の結末を決めるのです。このコントラストは素晴らしいとしか言いようがありません。作者が持っている人間に対する期待を表していると思います。

時代が変わり中国も経済大国になったとはいえ、全く本質が変わってないことは今回のコロナでも明らかです。ゼロコロナという無理筋のお上に政策に逆らえず、国民の生活も生命も全く顧みられることがありません。ほんとに21世紀の出来事でしょうか。挙句の果てにその方針を変更せざるを得なかったことは今の政権の行く末を暗示しているような気がします。

私は独裁国家というものが長期的に繁栄することはないと考えます。こう書くと独裁者がいかにも邪悪で無能だと私が考えているという印象を受けるかもしれませんがそうではありません。むしろ過去の独裁者は人間として途轍もない能力と精神力を持った人が多かったと思います。しかしどれだけ優れた能力があっても個々の人間というのは自然や社会という大きな存在の前での大きな変化に対しては無力であるし無数にある変数を読み切ることは不可能だということです。独裁者の判断で決められた方針はなかなか転換することはできません。そうすると行きつくところまで行ってします。なぜならば独裁者は古今東西例外なく自分の周りを同調者で固めてしまうからです。今の中国はまさに歴史の教科書のようです。

民主主義が素晴らしいのは確かに初動は遅く、短期的には間違っていることも多いかもしれませんが、途中で修正できるため決定的なところまで行きつく前になんとかすることができるという点です。

本書は当然ながら中国本土では発禁です。そりゃそうでしょう。独裁体制にとって最も恐ろしいのは民衆が啓蒙されることですから。国民は愚かであればあるほど都合が良いということです。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. くにたちきち2023-07-06 21:41

    表題を見て、「四書五経」といわれる、中国の古典中の古典のことかと思いきや、現代の発禁本とは、意外でした。しかし、四書五経も、かの秦の始皇帝は「焚書坑儒」として、書を焼き儒者を坑(あな)に埋めて殺したそうですから、歴史は繰り返されているのかもしれません。

  2. darkly2023-07-06 22:06

    くにたちきちさん、コメントありがとうございます。閻連科さんは、この内容では間違いなく発禁となるのを見越して、「四書」という書名をつけたのではないでしょうか?そうならば一枚上手ですね。

  3. No Image

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