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紅い芥子粒
レビュアー:
1930年代のシカゴ。20歳のビッガーは、白人の女性を殺してしまう。死体を燃やし、バレて、逃げて……差別という虐待を受けて生きる黒人の運命を描いた、黒人作家による黒人文学。
1930年代、大恐慌期のシカゴ。
アフリカ系アメリカ人のビッガー・トマスは、20歳の青年。黒人居住区の一部屋しかないアパートで、母親、弟、妹と生活保護を受けて暮らしている。学校は八年でやめてしまい、友人たちとぶらぶら遊んでいた。盗みをはたらいて感化院に送られたこともある。

そんなビッガーが、福祉事務所の紹介で就職することになった。生まれて初めての就職。雇用主のミスター・ドルトンは、不動産業を営むブルジョワで、もちろん白人である。貧しい黒人を支援する慈善家でもあった。ビッガーの仕事は、ドルトン家の運転手だった。

就職したその日、ビッガーは、ドルトン家の令嬢メアリーを殺してしまう。
殺意なんてなかった。
ただ、なりゆきで、保身のために、強くおさえつけたら、死んでしまった……

ビッガーは、メアリーの死体を消してしまわなければと思う。
トランクに入れて、地下の暖房炉まで運び、燃え盛る石炭の中に押し込んだ。
入りきらなかった頭部は、斧で切り落として炉に投げ入れた。
そのまま逃げようかとも思ったが、逃げなかった。
いったん家に帰り、翌朝また”出勤”した。
自分がしたことの顛末を見届けたいと思ったのだ。

ドルトン邸では、お嬢さんが行方不明になったと、大騒ぎになっていた。
ビッガーは、暖房炉の火をみつめながら、優越感のようなものを感じていた。
ここにいるみんなが知らないことを、自分は知っている。生まれて初めて、白人と同等、あるいはその上に立ったような気がした。
あろうことか、ビッガーは、さらなる悪事を企てる。
誘拐にみせかけ、身代金を要求しようと……

殺して、燃やして、身代金要求の手紙を書く。わずか一日か二日の間のことなのに、殺人者の心理が、細かく一生分のように長く重く書かれていて、ページをめくる手が止まらなかった。

殺人は、もちろんバレた。暖炉の灰の中から、人間の骨がみつかったのだ。
ビッガーは、逃げる。まっ白な雪が降り積もる、シカゴの街を……

1940年に出版された小説である。タイトルの「ネイティブ・サン」とは、その土地で生まれたその土地の息子という意味だ。黒人は、アメリカの息子でありながら、差別という虐待を受けて育ち、大人になってからの人生も閉ざされている。
作者のリチャード・ライトは、苦労して作家になった黒人で、アメリカ共産党の活動家でもあった。
ビッガーを弁護した弁護士の長すぎる演説は、語らずにいられない作者の主張、差別への抗議、血を吐くような叫びにも思えた。
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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