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献本書評
休蔵さん
休蔵
レビュアー:
本書は、『ホビット』や『指輪物語』を発表したJ・R・R・トールキンに関する展覧会のカタログ。作者を知ることが、より作品に没入することに繋がるはずと思わせてくれた1冊。
 J・R・R・トールキンとの出会いは、いまから30年ほど前の高校生の時だった。
 しがない地方のちょっとした本屋の文庫コーナーに箱入りセットで置かれていた『指輪物語』。
 単純にタイトルとカバーに魅かれて手にしたのが最初だった。
 衝撃だった。
 その映画化も衝撃で、ついDVDも買い揃えてしまった。
 その後、今に至る間に遅ればせながら『ホビット』も読み、その映像も堪能した。
 しかし、そこには著者に対する興味はなく、単純にストーリーを追いかけるだけで満足していた。
 そんななか本書を手にするという貴重な機会を得た。
 物語により深く入り込むことができるアイテムを手に入れたのだ。

 本書はトールキンを深く掘り上げつつ紹介するもので、オックスフォードで開催された彼に関する展覧会のカタログである。
 いままであまり文学館に足を運んだことがなかったが、本書を一読してその考えが一気に改まった。
 本書はトールキンが書き上げた物語をつぶさに検討するものではなく、著者その人を探求したもの。
 でも、著者を深く知ることは、物語を追求することに直結すると確信した。
 
 本書は大きく二部構成となる。
 前半の「エッセイ」は随想的読み物部分である。
 トールキンの生涯をまとめつつ、彼の創作に影響を及ぼした人物や事象を簡潔に紹介する。
 「ナルニア国物語」の作者であるC・S・ルイスとともに活動をし、お互いに刺激を与えあっていたことには驚いた。
 オックスフォードで英語英文学の教鞭を執っていたトールキンによるエルフ語の創造は、軸がしっかりとした本格的なものと知った。
 さまざまな人物的な背景が、『指輪物語』や『ホビット』など、多くの著作を下支えしていたようだ。
 それは当たり前のことなのかもしれない。
 ただ、そんな当たり前のこと、つまり作者を知ることが、物語をより楽しむことに繋がることを本書から改めて教えられた。

 後半の「カタログ」では、トールキン自身や彼が紡ぎ出した物語を関係するイラストなどがふんだんに紹介されている。
 物語を形作っていくうえで、そのイメージをビジュアル化できるかどうかは、物語にリアリティを添加するかどうかに関わる大きな条件だと思う。
 トールキンは自身の手でイラストや絵画を作成しており、世界観の実像を示してくれる。
 もちろん、挿絵や展覧会で発表するために描いたわけではない。
 だからこそ、本当の世界観を凝縮したものになっているのだろう。
 さらに、トールキンの写真や家族の写真、書斎にあったデスクの写真などもあり、彼自身を知る手助けもしてくれている。
 
 小説家について詳しく知ろうと思ったことはあまりなかった。
 1人の作者が創作した作品そのものを楽しむことができれば十分だと思っていた。
 でも、作者の経験や人となりを知ることが、物語に深みを与えてくれる。
 本書はその気づきを与えてくれた大切な1冊になろう。
 読後の高揚した気持ちの延長で、改めて『指輪物語』のページをめくろうと思う。
 本当は原著が良いのだろうが、それだと少々ハードルが高いので、手元にある文庫本からはじめよう。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:449 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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この書評へのコメント

  1. ゆうちゃん2023-06-30 21:50

    コメントが遅れました。本書、僕も応募しましたが休蔵さんが当然されたのですね。おめでとうございます。指輪物語は僕も大好きな作品なので、こちらの書評をお待ちしております。僕の持っている評論社の文庫版には挿絵がありますが、これはもしかしたらトールキンが書いたものなのかもしれませんね。
    僕はYoutubeのどこかで、トールキンはまず言語(エルフ語)を作り、言語には歴史があるだろうと指輪物語を書いたと聞きました。しっかりした世界観のファンタジー作品が描けたのもそういった背景があったからなのだと思いました。

  2. 休蔵2023-06-30 22:57

    ゆうちゃんさん、コメントありがとうございます。
    本書の場合、特に多くの方がエントリーされていたので、無理かと思いながらエントリーしましたが、運よく当選させていただきました。
    そのため書評を投稿する時のプレッシャーたるや・・・

    トールキンは、しっかりと体系だったエルフ語を作り上げたということで、驚かされました。
    「ホビット」は息子たちのために書き始め、その延長にあの「指輪物語」が!
    著者のことを知ったことで、時を超えて名作を読める幸せを痛感しました。

  3. No Image

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