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たけぞう
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アンゴラの首都ルアンダからの幻想小説。
著者の作品を読むのは二冊目です。
一冊目はこちらです。ショートカット先「忘却についての一般論」。アンゴラの内戦を生き抜いた人の物語ですが、実話を取材したはずなのに信じられない世界観がある作品でした。

本著も、期待通り意外な作品でした。ある意味で、とても著者らしい作品です。
現実的な文体で書きながら、内容には非現実が入り混じるという展開です。幻想小説と評しましたが、超現実といってもいいのかもしれません。ちょっと読んだことのない雰囲気がある作品です。なかなか興味を惹かれましたね。

表紙の絵はヤモリです。タイガーゲッコーという珍しい種類です。すごい笑い声をあげるのです。まるで人間みたいな。

第1章.わたしはこの家で生まれ、育ったという一文から始まります。主人公はわたしで、一人称の小説です。同居者はフェリックス。章によってフェリックスが語り手になるので、副主人公ですね。
「嘘だろ! おまえ、笑うの?」フェリックスがわたしを見て吃驚しています。はっきりとは書いてありませんが、第1章の後半に進むにつれ、どうやらわたしは人間ではないことが分かります。最終行で夜行性だとあるので、たぶんヤモリが主人公なんだろうなと連想できるのです。

第3章、外国人。物語が動き始める章です。
擬人化されたヤモリの話かと思っていたのですが、いろいろと伏線が張ってあり、そんな単純な話ではないことがじわじわと伝わってきます。第3章は、その意味で重要な章です。第3章に登場する外国人は、存在そのものがこの物語のテーマを暗示しているのですから。

あなたは何者なのか、お訊ねしてもいいですかとフェリックスは問いかけます。答えはありません。だってフェリックスの仕事は、過去の経歴を他人に売ることなのですから。過去を忘れたい、書き替えたいと思う人間が、自分の身の上のことをべらべら話すはずがありません。
しかし、この外国人の存在こそが、物語を真実へと向かわせていくので、皮肉めいた運命のように感じます。逆に、自然の摂理なのかもしれないと思ったりします。
名前というのは、ときに呪いとなる。大雨が泥川の流れを作るように、名前が人の道を決めることもある。どれだけ抵抗したところで、名前が決めた運命には逆らえない。あるいは名前が仮面となることもある。名前は隠し、惑わせる。だが、多くは明らかに何の力ももたない。わたしは自分が人間だったころの名を思い出したところで、喜びも、痛みも、感じない。寂しくもない。あれは、わたしではなかったのだから。
前半五十頁の文章です。胸に刺さりました。もし、気になりましたらご一読を。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
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よかったらのぞいてみて下さい。

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