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吉田あや
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ネグレクトに近い状態で育った花が15歳の夏から数年一緒に暮らした彼女は20年後、監禁・傷害の罪で逮捕されていた。過去を回想しながら語られる青春と犯罪。お金が孕む狂気の正体を見た気がした。
花が20年程前、女4人で住んでいた黄色い家。20歳の頃散り散りになって以来思い出すこともなかったかつての出来事は20年後、監禁・傷害の罪で逮捕された黄美子のネット記事を見たことから走馬灯のように蘇り、衝撃と焦燥と共に花に重く圧し掛かっていく。

ネグレクトに近い状態でいい加減な母と過ごしていた花に唯一優しく包んでくれたのは母の友人・黄美子。この世界から唯一救ってくれる人だと信じ、現在から逃げるように新しい生活へと踏み出した15歳の夏。年齢を偽りスナックを二人で始め、同じ年頃で同じような境遇の蘭と桃子も加わり、4人での生活がスタートした。

金運は大事と風水に従い家の一角に黄色のコーナーを作り全ては順調で楽しかったが、ある出来事を端緒に不安に思考は蝕まれ、生活の為と犯罪へと手を染めていく。皆との楽しい未来の為にお金が貯まるまでのことと衝動的に始めた犯罪だったが、どんどん舞い込むお金を前にそれぞれの考えはすれ違い、平等な同居人の関係はパワーバランスを作り出していった。

まだ子供だった花たちは知識不足や浅はかさ、身分や保証のない心細さと選択肢の少なさから真っ当な答えを導き出せず、周りの大人の無責任さに引っ張られ暴走していく。ぎりぎり感に追いつめられ家の空気の濁りをどうにかしようと重たいものを吹き飛ばすように家の壁を黄色のペンキで塗りつぶしていく異様なテンションは、愉し気な空気とは裏腹に不気味な狂気を予感させ、圧倒的なスピードを伴って暗がりの方へと走り出す。

それぞれの人物が持ち合わせる美点と欠点の振り分けが素晴らしく、善悪だけではない複雑な人間の心の揺れや名状しがたい想いの背後にあるものをじわじわと炙り出していく構成が見事。親の愛情を十全に受けられず、正しく成長することを阻まれた幼い心の傷は、時に犯罪や暴力と歪な形となりその人を象ってしまう。

沢山の不可抗力から運命を狂わされた花にも胸を掴まれたが、背景をふわっとしか語られることはないけれど、静かに哀しみをその身に宿す黄美子に重なる現代の様々な問題に心が締め付けられた。お金が孕む狂気の正体を見た気がした。
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吉田あや
吉田あや さん本が好き!1級(書評数:604 件)

ジャンル問わず、読みたい本を
雑多に読んでいます。

共通の、また新しい世界を
一緒に楽しめたら幸せです。

よろしくお願いします。

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