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紅い芥子粒
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親ガチャという言葉の意味の深刻さを、わたしたちは、もっと考えるべきではないだろうか。
花は、東村山の文化住宅で母親と暮らしていた。
母親はホステスで、金銭にだらしない人だった。
父親は、花が小学生のときに家からいなくなった。
母親にも当然のようにオトコができて、花が待つ家に帰らない日もあった。

花が中学3年のある日、母親が寝ているはずのふとんに知らない女の人が寝ていた。
母親のホステス仲間。それが、黄美子さんとの出会いだった。
黄美子さんは、ふわっとした温かい風のような人だった。
どこかへ行ってしまった母親。
花は、代わりに来てくれた黄美子さんと風水や占いの話をした。
黄色は幸運と金運をよぶ色。
そういえば、黄美子さんの名前にも黄が入っているね。
そのときから、花の黄色信仰は始まった。

高校生になった花は、ファミレスのバイトに明け暮れる。
自分は父親にも母親にも頼れない。頼れるのはお金だけ。
最低賃金で夜も昼も働いて、貯めたお金を盗まれたのは、高校二年の夏だった。
盗んだのは、母親が連れてきたオトコだった。

絶望のどん底にいたとき、花は黄美子さんに再会する。
黄美子さんは、スナックを始めるという。
花は、黄美子さんについて行くことにした。

スナックの名前はれもん。花が決めた。れもんは黄色。幸福とお金をよぶ色。
新しい仲間も二人加わった。
花と同じような境遇の蘭。
お金持ちだけど毒親から逃げてきた桃子。
蘭も桃子も、学校へ行かなくなった高校生だった。

黄美子さんと花が一軒家を借りると、蘭と桃子も転がり込んできた。
四人の共同生活が始まる。
花も、蘭も、桃子も、そして黄美子さんも、親はいても孤児のようなものだった。
孤児四人が寄り集まって作った、しあわせな疑似家族。
花はその家に、黄色コーナーを作った。
このしあわせがいつまでも続きますように。
お金が順調に貯まりますように。

しかし、しあわせは長くは続かない。
訪ねてきた母親に無心され、順調に貯めていたお金ぜんぶを、渡してしまった。
大事な大事なれもんが、火事で焼けた。

れもんを再開したい。四人の暮らしを守らなければ。それにはお金がいる。
追い詰められた花は、裏社会のヤバいシノギに手を染める。
蘭や桃子も巻き込んで……

お金はみるみる貯まっていく。犯罪で手に入れた、秘密のお金。
お金を守るために、花は、蘭や桃子を支配し始める。
家の壁を黄色に塗って、さながら拝金教の教祖のようになって。

黄美子さんは、明日のことを考えたり、過去から学んだりできない人だった。
性格の問題ではなく、そういう能力が欠けていた。
欲も悪意もなく、泣いている人にふわっと寄り添ってくれる温かい人だったが、
裏社会とつながっていた。
花をヤバいシノギに誘ったのは、黄美子さんつながりの裏社会の男の人だった。
その人は、自身の身の上を花に語ったとき、ぽろりともらしたのだ。
おっきなことは、自分じゃ選べない。親とか、どこに生まれるか、とか

花が黄美子さんに出会い、黄色い家が崩壊するまで五年。
15歳だった花は、20歳になっていた。
物語は、実は、その二十年後から始まっている。
あの黄色い家は何だったのか。黄美子さんとは何者だったのか。
四十歳になった花が回想する、濃密で異様な青春の五年間を、わたしは、キリキリ胸が痛む思いで読んでいた。

花は、かしこく責任感の強い少女だった。
もし、もっとまともな親から生まれていたら、もう少しマシな家に生まれていたら、
日の当たる表の道を堂々と歩いていけただろうに。
貧乏な親は、その親も、そのまた親も貧乏で、貧乏な親が三代も続けばその子は貧困に苦しむ。経済活動をしていれば、金持ちと貧乏が生まれるのはしょうがない。
しかし、貧困はいけない。貧乏な人が貧困に陥るのは、政治と社会の責任だ。
親ガチャという言葉の意味の深刻さを、わたしたちは、もっともっと考えるべきではないだろうか。
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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