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テ・テツワではなくテ・かなわと読む。五徳を冠し丑の刻参りをする鉄輪の女。その化身か、キリという女ー。
ホラー連作短編 IN 京都 。京都修行中の身には歩いた名所が怪異の舞台となってたりして、なかなか味わい深かった。
私にとって鉄輪とは能の演目だ。観たことはないけど、画家上村松園が謡を題材にすると著書で読み、謡曲をストーリーにしたり解説したりしている本をいくつか読んだ。で、鬼好きというところから、この話は気に入っている。
鞍馬の山峡にある貴船神社の社人に夢のお告げがある。丑の刻参りをしている都の女に伝えよ、と。女は自分を捨てた夫に報いを受けさせようと遠い道のりを毎晩通ってきていたのだった。社人は真夜中に来た女に神託を伝える。三つの脚に火を灯した鉄輪(五徳)を頭にかぶるなどして怒りの心を持つなら、望み通り鬼となる、と。
果たして女は鬼となり、元夫と後妻を苦しめるが、安倍晴明に退けられるー。
この連作短編では、鉄輪の井戸のそばにあり、鉄輪の女の絵を置く町屋カフェ、サロン・ド・テ・鉄輪を構える店主の女、関水キリと、おそらく著者の「センセ」が、多くの怪異に出逢う。
鉄輪の女はキリの半身であり、縁切りのご利益を秘めた鉄輪の井戸水で茶を点て、悪縁から逃れたいと望む者たちの願いを叶えるキリー。数々の怪異の場にセンセを付き合わせる、もしくは、はからずも巻き込まれたセンセを救う。
大文字の火で焼身自殺したカップル(テ・鉄輪)、また紫野の今宮神社で歌う美しい怪物、巴御前(麗人宴)。
センセの旧友が浮気を繰り返し女たちの恨みを買い、祇園界隈で魔に襲われたり(修羅霊)、陶器などを修復する店の男がかつて事故で子をなくし贄を求める話だったり(金繍鬼)。また良い絵を描くために火をつけた画家にセンセが夜の御所で出逢うものであったり(施画鬼)、京都と京都人の風情たっぷりに怪しくおどろおどろしく書き下している。
着物、建築の部分の名称、伝統色、植物に至るまでよく調べられ、文章に織り混ぜられていて、プロの物書きの力量を見る。
また、冒頭の短編には和泉式部が出てくるし、巴は言わずと知れた木曾義仲の愛人にして女武者、「修羅霊」は伊勢物語と蜻蛉日記を足したような風情もあり、絵を描くために火をつけるのは古典を題材にした芥川龍之介「地獄変」そのもの。
古典の風合いがベースに取り入れられ、この物語集をより重厚に、禍々しくしている。
巴御前の話は、御所の北西、金閣寺との間くらいに位置する紫野が主要な舞台。大徳寺納豆が知られる大徳寺、あぶり餅で有名な今宮神社あたりは紫式部が生まれ育ったという説もあり、落ち着いて静かな風情が好きでよく通っている。松風という和菓子を売る松屋藤兵衛、お取り寄せにハマっているサカイの冷やし中華などが劇中に出てきて嬉しかった。ほか京都各地のよく行ったり行ってみたかったりする地名や店名が出て感興をもよおさせる。
そして「施画鬼」の導入では夜の御所内を通り抜けている。
いま身を浸している夜は平安時代と地続きなのだ。
という一文で一気に妖しさと、闇の黒さと京独特の雰囲気が湧き立った。変な感覚かもだが、夜の御所を歩いてみたくなった。
練り込まれた京都ホラー。会話は京言葉で交わされる。彼岸と此岸を行き来しているかのようなキリも魅力的なキャラである。鉄輪の女は丑の刻参りのイメージが強いが、謡曲のように五徳をいただいた鬼の方が好きではある鬼好き。
次回は完結編かな。続きがもしあれば読みたいところだ。本に出てきた興味深い場所や店もチェックしたいし、酒呑童子を退治した源頼光四天王でリーダー格の渡辺綱が鬼・茨木童子に襲われたという一条戻橋にも行ってみたいな。
友人からニュージーランドのオペラ歌手、キリ・テ・カナワは関係あるのかしらと。歌手名は寡聞にして知らなかった。関西人だし、絶対そこから来てると確信しております^_^
私にとって鉄輪とは能の演目だ。観たことはないけど、画家上村松園が謡を題材にすると著書で読み、謡曲をストーリーにしたり解説したりしている本をいくつか読んだ。で、鬼好きというところから、この話は気に入っている。
鞍馬の山峡にある貴船神社の社人に夢のお告げがある。丑の刻参りをしている都の女に伝えよ、と。女は自分を捨てた夫に報いを受けさせようと遠い道のりを毎晩通ってきていたのだった。社人は真夜中に来た女に神託を伝える。三つの脚に火を灯した鉄輪(五徳)を頭にかぶるなどして怒りの心を持つなら、望み通り鬼となる、と。
果たして女は鬼となり、元夫と後妻を苦しめるが、安倍晴明に退けられるー。
この連作短編では、鉄輪の井戸のそばにあり、鉄輪の女の絵を置く町屋カフェ、サロン・ド・テ・鉄輪を構える店主の女、関水キリと、おそらく著者の「センセ」が、多くの怪異に出逢う。
鉄輪の女はキリの半身であり、縁切りのご利益を秘めた鉄輪の井戸水で茶を点て、悪縁から逃れたいと望む者たちの願いを叶えるキリー。数々の怪異の場にセンセを付き合わせる、もしくは、はからずも巻き込まれたセンセを救う。
大文字の火で焼身自殺したカップル(テ・鉄輪)、また紫野の今宮神社で歌う美しい怪物、巴御前(麗人宴)。
センセの旧友が浮気を繰り返し女たちの恨みを買い、祇園界隈で魔に襲われたり(修羅霊)、陶器などを修復する店の男がかつて事故で子をなくし贄を求める話だったり(金繍鬼)。また良い絵を描くために火をつけた画家にセンセが夜の御所で出逢うものであったり(施画鬼)、京都と京都人の風情たっぷりに怪しくおどろおどろしく書き下している。
着物、建築の部分の名称、伝統色、植物に至るまでよく調べられ、文章に織り混ぜられていて、プロの物書きの力量を見る。
また、冒頭の短編には和泉式部が出てくるし、巴は言わずと知れた木曾義仲の愛人にして女武者、「修羅霊」は伊勢物語と蜻蛉日記を足したような風情もあり、絵を描くために火をつけるのは古典を題材にした芥川龍之介「地獄変」そのもの。
古典の風合いがベースに取り入れられ、この物語集をより重厚に、禍々しくしている。
巴御前の話は、御所の北西、金閣寺との間くらいに位置する紫野が主要な舞台。大徳寺納豆が知られる大徳寺、あぶり餅で有名な今宮神社あたりは紫式部が生まれ育ったという説もあり、落ち着いて静かな風情が好きでよく通っている。松風という和菓子を売る松屋藤兵衛、お取り寄せにハマっているサカイの冷やし中華などが劇中に出てきて嬉しかった。ほか京都各地のよく行ったり行ってみたかったりする地名や店名が出て感興をもよおさせる。
そして「施画鬼」の導入では夜の御所内を通り抜けている。
いま身を浸している夜は平安時代と地続きなのだ。
という一文で一気に妖しさと、闇の黒さと京独特の雰囲気が湧き立った。変な感覚かもだが、夜の御所を歩いてみたくなった。
練り込まれた京都ホラー。会話は京言葉で交わされる。彼岸と此岸を行き来しているかのようなキリも魅力的なキャラである。鉄輪の女は丑の刻参りのイメージが強いが、謡曲のように五徳をいただいた鬼の方が好きではある鬼好き。
次回は完結編かな。続きがもしあれば読みたいところだ。本に出てきた興味深い場所や店もチェックしたいし、酒呑童子を退治した源頼光四天王でリーダー格の渡辺綱が鬼・茨木童子に襲われたという一条戻橋にも行ってみたいな。
友人からニュージーランドのオペラ歌手、キリ・テ・カナワは関係あるのかしらと。歌手名は寡聞にして知らなかった。関西人だし、絶対そこから来てると確信しております^_^
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読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。
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- 出版社:光文社
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- ISBN:9784334929008
- 発売日:2013年09月19日
- 価格:1円
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