ぽんきちさん
レビュアー:
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Life after life--終身刑となった後の人生
イギリスで殺人を犯した人たちのインタビュー集。
イギリスは死刑制度がなく、殺人罪を犯した者は一律に終身刑となるという。本当に文字通り死ぬまでの終身刑で、減刑されることはない。ただ仮釈放の制度はあり、これが認められれば、社会に出ることはできる。とはいえ、仮釈放後も保護監察官と定期的に連絡を取らねばならない。定職に就く場合には、雇い主に自分の過去を話す義務もある。これらに違反したり、また再度犯罪に走る予兆があったりすれば、再収監されることになっている。
つまり、死刑になることはないものの、ひとたび殺人を犯せば、残りの人生でずっとそのことが付きまとう。罪を償って自由の身になるということはありえないということだ。
さて、そうした彼らは残りの人生で何を考え、どのように生きているものなのか。10人の老若男女の人々にインタビューしたものが本書である。
原題はLife after Lifeで、2番目のLifeは終身刑(Life sentence)を指す。なかなか含蓄のあるタイトルだが、邦題も意を汲んでいて悪くはない。
著者のトニー・パーカー(1923-1996)は、作家・ジャーナリストで、特にイギリスやアメリカで社会の周辺部に追いやられた人々に多く取材した人物である。口述歴史家(oral historian)ともいわれる。英語版Wikipediaに挙げられている著書は20数冊だが、邦訳書は数冊程度のようである。パーカーは犯罪者に多くインタビューしているが、灯台守にインタビューした著書(Lighthouse (1975))もある。先日読んだ『光を灯す男たち』でかなり参考にしたと知り、興味を持った。残念ながら"Lighthouse"は邦訳されておらず、とりあえず、入手が簡単だったこちらを読んでみた。
10人の殺人犯による10の語り。
聞き手のパーカーは黒子に徹している。時折、簡単な注釈や描写がさしはさまれるが、インタビュー中でパーカーが何を問いかけたかは記されない。語り手(この場合は殺人犯)の一人称でそれぞれの物語が綴られていく。
読み進めていくとそれはなかなかディープな体験で、彼ら・彼女らの人生がまざまざと目前に立ち上がってくるかのようである。このあたりはパーカーの稀有の才能で、語り手の心を開かせ、その語りを再構築する手腕によるものだろう。誰にでもできるというものではないはずだ。
彼らがなぜ殺人に走ったかという理由はそれぞれである。
あるものは、酒に酔い、通りで声を掛けてきたいけ好かない男を殺してしまう。
あるものは、大好きだったはずの祖父が小遣いをくれないといったために手元のハサミで刺してしまう。
あるものは、妻が大喧嘩の果てに出ていき、残された赤ん坊が泣き止まないので手にかける。
あるものは、強盗をして逃げる途中で警察官を石で殴り殺す。
あるものは、親友に恋人を寝取られたと知り、かっとなって絞め殺す。
ありきたりの三面記事のようだが、それぞれにはその背景があり、そこに至る経緯がある(もちろん、それは加害者側の物語であり、被害者にはまた別の物語がありうるのだろうが)。
酒に酔っていた男は、父親への不満があった。泣いている赤ん坊に苛立つ男は、そもそもその子が別の男の子ではないかと疑っていた。親友を殺した女が今でも会いたいと思うのは恋人ではなく親友の方だった。
そしていずれにしろ、彼らはずっと自分が人を殺したという事実と向き合って生きていく。
毛色の違う犯罪を総括することにあまり意味はないかもしれないが、読んでいて思うのは、彼らと他人の絆との「薄さ」である。家庭的に恵まれないものが多く、両親が離婚していたり、あるいは家族とうまくいかずに施設に送られたり、という経験をしているものが多い。それだけが犯罪の要因ではないだろうが、あるいはここで誰かと深い絆があればこうはならなかったのではないか、という印象をそこここで受ける。
一方で、一線を越えるとき、意外にそれはたやすく訪れる。意外にあっけなく人は死に、意外にあっけなく被害者・加害者双方の人生が変わる。
さてその一線は、自分からどれほど遠いのか、いささか心許ない思いも抱く。
イギリスは死刑制度がなく、殺人罪を犯した者は一律に終身刑となるという。本当に文字通り死ぬまでの終身刑で、減刑されることはない。ただ仮釈放の制度はあり、これが認められれば、社会に出ることはできる。とはいえ、仮釈放後も保護監察官と定期的に連絡を取らねばならない。定職に就く場合には、雇い主に自分の過去を話す義務もある。これらに違反したり、また再度犯罪に走る予兆があったりすれば、再収監されることになっている。
つまり、死刑になることはないものの、ひとたび殺人を犯せば、残りの人生でずっとそのことが付きまとう。罪を償って自由の身になるということはありえないということだ。
さて、そうした彼らは残りの人生で何を考え、どのように生きているものなのか。10人の老若男女の人々にインタビューしたものが本書である。
原題はLife after Lifeで、2番目のLifeは終身刑(Life sentence)を指す。なかなか含蓄のあるタイトルだが、邦題も意を汲んでいて悪くはない。
著者のトニー・パーカー(1923-1996)は、作家・ジャーナリストで、特にイギリスやアメリカで社会の周辺部に追いやられた人々に多く取材した人物である。口述歴史家(oral historian)ともいわれる。英語版Wikipediaに挙げられている著書は20数冊だが、邦訳書は数冊程度のようである。パーカーは犯罪者に多くインタビューしているが、灯台守にインタビューした著書(Lighthouse (1975))もある。先日読んだ『光を灯す男たち』でかなり参考にしたと知り、興味を持った。残念ながら"Lighthouse"は邦訳されておらず、とりあえず、入手が簡単だったこちらを読んでみた。
10人の殺人犯による10の語り。
聞き手のパーカーは黒子に徹している。時折、簡単な注釈や描写がさしはさまれるが、インタビュー中でパーカーが何を問いかけたかは記されない。語り手(この場合は殺人犯)の一人称でそれぞれの物語が綴られていく。
読み進めていくとそれはなかなかディープな体験で、彼ら・彼女らの人生がまざまざと目前に立ち上がってくるかのようである。このあたりはパーカーの稀有の才能で、語り手の心を開かせ、その語りを再構築する手腕によるものだろう。誰にでもできるというものではないはずだ。
彼らがなぜ殺人に走ったかという理由はそれぞれである。
あるものは、酒に酔い、通りで声を掛けてきたいけ好かない男を殺してしまう。
あるものは、大好きだったはずの祖父が小遣いをくれないといったために手元のハサミで刺してしまう。
あるものは、妻が大喧嘩の果てに出ていき、残された赤ん坊が泣き止まないので手にかける。
あるものは、強盗をして逃げる途中で警察官を石で殴り殺す。
あるものは、親友に恋人を寝取られたと知り、かっとなって絞め殺す。
ありきたりの三面記事のようだが、それぞれにはその背景があり、そこに至る経緯がある(もちろん、それは加害者側の物語であり、被害者にはまた別の物語がありうるのだろうが)。
酒に酔っていた男は、父親への不満があった。泣いている赤ん坊に苛立つ男は、そもそもその子が別の男の子ではないかと疑っていた。親友を殺した女が今でも会いたいと思うのは恋人ではなく親友の方だった。
そしていずれにしろ、彼らはずっと自分が人を殺したという事実と向き合って生きていく。
毛色の違う犯罪を総括することにあまり意味はないかもしれないが、読んでいて思うのは、彼らと他人の絆との「薄さ」である。家庭的に恵まれないものが多く、両親が離婚していたり、あるいは家族とうまくいかずに施設に送られたり、という経験をしているものが多い。それだけが犯罪の要因ではないだろうが、あるいはここで誰かと深い絆があればこうはならなかったのではないか、という印象をそこここで受ける。
一方で、一線を越えるとき、意外にそれはたやすく訪れる。意外にあっけなく人は死に、意外にあっけなく被害者・加害者双方の人生が変わる。
さてその一線は、自分からどれほど遠いのか、いささか心許ない思いも抱く。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784102200315
- 発売日:2016年04月28日
- 価格:131円
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