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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
惑星の「惑」、まどうの「惑」でもある。
スモーキー山脈の山小屋のテラスに望遠鏡を設置して、父と九歳の息子が、木々の間から星空を見ている。
「この世界と折り合いが悪い」息子ロビンについて、これまでかかった三人の医師がそれぞれに別の病(症状)名をつけていた。父親シーオは、医師は息子には役に立たないと思っている。
父親は、「息子という小さな宇宙は、私にはとても計り知れない」ことを知っている。それは、この本を読む私にもわかる。そして、この子と向かい合う父親の真剣さ、ごまかしのない誠実さに打たれるのだ。
この世界の不思議について、父と子が交わす会話が素晴らしくて、そこだけ拾い集めて何度も読み返したくなるほどだ。


シーオは、宇宙に知的生命体をさがす、宇宙生物学者だ。
どこか遠い惑星に降り立った父と子が、その星の命のありようを見守る小さなシーンが、いくつも挟み込まれるが、これらは、父が子に寝物語として話す想像の世界だ。父と子と二人で作り上げていく。これらの小さな物語もとても愛おしい。


「けど、僕らのところに彼らからメッセージが届くことはないんだ」
地球のような星は宇宙の中にどのくらいあるのだろう、と考えた少年が、ポツンとつぶやいた言葉であるが、その深い孤独に言葉もない。
地球という惑星の孤独は、ロビン少年の孤独と響き合う。彼もまた、この社会の中で、メッセージを送り合えない孤独な惑星なのだ。


二年前に亡くなったシーオの妻アリッサは、野生生物保全のために尽力した科学者で、活動家だった。ありのままの息子をいちばん理解していた人でもあった。
アリッサの生き物たちへの思いはロビンに受け継がれている。
日々絶滅していく(させられていく)野生生物たちの激しい流れもまた、消滅していく惑星のようだ。


脳神経科学者のチームが研究・開発した「神経フィードバック訓練」という実験的な治療法が出てくる。
(心的外傷のある人に)おもに共感力を育くむ治療法で、成果をあげつつある。素晴らしいと思うが、同時にその効果の目覚ましさが少し怖くもある。


環境運動の騎手になった1人の少女は「自分の抱える自閉症を特別な能力、と呼んだことがある」
確かにそうなのだろう。でも、そう言い切れるほど、たいてい人は強くないのだ。それに、この社会は、そのように強く在ってほしくないのだ。


深い沈黙のなかで、ただもう孤立していくしかなくて、でも、そこで孤立することも許されない、惑星たち。
ではいったいどうしたらいいのだろう、と思うとき、風の中で木々が枝を揺する音が聞こえてくる。名の知れない鳥の鳴き声が聞こえてくる。
ここでそういうものを感じることができることに驚いてしまう。


……共感力がないわけではない。あの惑星も、この惑星も、そして私という惑星も、「こちらを向くのだ」といわれる方向とはまた別の方向と、静かに共感しているのかもしれないし、それは、「こちら」たちが気がつかないとしても、とっても大切な共感なのだ。


そして、いま。
「地球の美しさをみつめる人は、生命が続く限り持ちこたえる力の源を見つけるだろう」
冒頭に掲げられたレイチェル・カーゾン『センス・オブ・ワンダー』の言葉が蘇ってきて、ずっとここに留まる。

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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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この書評へのコメント

  1. ef2024-10-28 18:37

    パワーズ、読まれたんですね。私、大好きな作家さんで邦訳されている本は全部読んでしまいました。また出ないかなぁと待っています。
    他にも沢山良い本があります。ぜひぜひコンプリートを。

  2. ぱせり2024-10-29 07:53

    efさん、ありがとうございます。これはもう抱きしめたいくらい好きな本になりました。こんな本を読んでしまうと、ぼうっとして、しばらくほかの本が読めなくなりそうです(そんなこといっても、きっと読みますけど^^)
    efさんの大好きな作家さん。そうだと思っていました。パワーズ、読むのに体力が要りそうな作家さん、というイメージでしたが、これを機に少しずつ読み進めてみたいです。efさんの書評、参考にさせていただきます~。

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