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星落秋風五丈原
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北欧にもまともな刑事がいた!セイエル刑事シリーズ 開幕?
 ノルウェーの森の奥で老女が殺害される。被害者の左目には鍬が突き刺さっていた。第一発見者の少年が、精神病院に入所している青年エリケを現場で目撃していた。捜査陣を率いるセイエル警部は、エリケを犯人と決めつける者たちの偏見の言葉に左右されず、冷静に手がかりを集めていくが。

 ヴァランダーを筆頭に、北欧ミステリの刑事は生活破綻者や性格破綻者が多い。「悲惨な事件に数多く遭遇しているのでそうなる」というのが何となく定説になっているが、本編のセイエル警部はまともである。どれくらいまともかというと
ちょっと権威主義的。無口。聡明。鎌のように鋭く、徹底的で、辛抱強く、頼りになり、けっしてあきらめない。幼い子供と年老いた女性に弱い

中間は対象外なんですか?

彼は男やもめなんですよ。彼が妻に約束したのは、死が二人を分かつまで忠誠を尽くすことだけなんですが、そのことを忘れていて、自分は死ぬまでそうしなくてはならないと思いこんでいるのです

と直属の部下に紹介されるほど。冒頭に登場しない主人公セイエルがまず遭遇するのは銀行強盗で、偶然実行犯と連れ去られる女性を目撃したことから、本編のもう一人の主人公との出会いが遅れる。

これはエリケの物語

と銘打っている通り、多視点の本編は収容所から脱走したエリケが中心になっている。つまり、彼がもう一人の主人公だ。セイエルが女性と間違えたのは長髪の彼であり、事件の容疑者とされたちょうど同じタイミングで、銀行にいたがために行き当たりばったりの強盗に連れ去られてしまった。人質を取って逃走するのはかなり高度なテクだが、その辺り全く考えていない強盗モルガンが素人くさくていい。プロの強盗ならあっさり早い段階で見切りをつけて人質を殺すが、モルガンはエルケを“変な奴”呼ばわりするものの、食べ物も与え監禁もせず連れ歩く。村では「悪い人間ではないが行動が読めない」と厄介者扱いされているエルケに、初めて友情らしきものが芽生えていく。ぽつんと孤立した町ほど異端者が目立つため、自分も一緒になって排除しないと異端者と同一視されるというコミュニティ故の人間関係を保つ難しさもあり、エルケを色眼鏡で見ない人はごくわずかだ。そのうちの一人であるエルケの担当医であり精神科医ソーラとセイエルの間にほんのりロマンスが生まれそうな予感。残念ながら続巻は刊行されていない。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2323 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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この書評へのコメント

  1. ef2023-06-29 06:11

    男やもめ設定は北欧ミステリの伝統を受け継いでるのね(笑)……いや、みんながみんな男やもめというわけじゃないけれど、どうも北欧ミステリの刑事にはそういう印象が強くて(苦笑)。

  2. 星落秋風五丈原2023-06-29 06:37

    efさんみなさんこんにちは。
    そういえば北欧ミステリはヴァランダーといい子供がいても離婚してたりして小さい子供とどうこうする父親というイメージがないですね。まあ酔いどれってないだけいいかと(笑)

  3. No Image

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