休蔵さん
レビュアー:
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現代初頭に岡山で活躍した建築家である薬師寺主計を紹介する1冊。あまり知られることのない地方の建築家を知るための最適な教科書である。
著名な建築家は数多くいる。
現代では世界的なコンペに勝利して、巨大な建造物を築き上げるというイメージがある。
近代については、基本的には中央で活躍した建築家が世に知られている。
もちろん、それほど名声を高めていない建築家も数多く存在していたと思うが、変な話ではあるが、名の通っている建築家しか存在しなかったような印象すら抱いてしまう。
しかしながら、地方になると事情が大きく異なってくる。
たとえその地方のなかでは著名な建造物でも、それに関わった建築家が知られていないことが多い。
本書は、そんな地方で活躍した建築家のひとりである、薬師寺主計について紹介する1冊である。
薬師寺は今の岡山県総社市で生まれた。
東京帝国大学工科建築科を卒業後に陸軍省技師として勤務することになった。
その時代の薬師寺には、宇垣一成という強力な後ろ盾が存在した。
宇垣一成は岡山県出身の陸軍大将であり政治家で、近衛文麿内閣の外相、拓務相についた人物で、宇垣の存在は当時の岡山出身者には相当に心強い存在であったに違いない。
薬師寺は陸軍省時代にも様々な建造物に関わっているが、彼の仕事は郷里に戻った後のほうが重要なのかもしれない。
郷里に戻った薬師寺は、郷里の有力者である大原孫三郎の仕事に数多く関わっている。
例えば第一同号銀行倉敷支店や大原家の別邸である有隣荘、大原美術館本館、倉紡中央病院などなど。
パトロンの別荘はもちろんのこと、銀行建築から病院建築、さらには美術館までと幅広く多彩である。
これらの建造物は現存しており、薬師寺の力を強く感じさせてくれる。
さらに倉敷絹織株式会社(現在の株式会社クラレ)の取締役に就任し、経営者としての顔も持っていた。
時代を特徴づける建造物は確実に存在する。
そして、地方を特徴づける建造物もまた存在し、それを担った建築家も存在した。
建造物は、ややもすると当たり前の風景として日常に溶け込んでしまいがちである。
著名な建築家の設計によるものであればいざしらず、その重要性が見出されていないままの人物も数多く存在するであろう。
薬師寺主計の場合、地元の研究者が発掘し、書籍という形にして世に示してくれた。
そこで価値が高まり、建造物そのものの価値づけにも繋がっているのではないであろうか。
文化財指定されていない建造物は、油断すると壊されてしまう(油断してなくても壊されるときは壊されてしまうが・・・)。
そこに建つときは大きな存在感があった建造物も、壊されてしまうと、すぐに忘れ去られてしまう。
それは驚くほどあっさりとしたもので、新しい建造物が跡地に建ってしまうと、その風景に記憶は簡単に更新されてしまう。
地方にも数多くの面白い建造物が存在し、それを手掛けた建築家がいた。
書籍はその存在を広く知らしめてくれる大きな責任も担っていると考える。
本書はその役割をきちんと全うしている良書と考える。
数多くの人の読んでもらい、散策の友にしてもらいたい1冊である。
現代では世界的なコンペに勝利して、巨大な建造物を築き上げるというイメージがある。
近代については、基本的には中央で活躍した建築家が世に知られている。
もちろん、それほど名声を高めていない建築家も数多く存在していたと思うが、変な話ではあるが、名の通っている建築家しか存在しなかったような印象すら抱いてしまう。
しかしながら、地方になると事情が大きく異なってくる。
たとえその地方のなかでは著名な建造物でも、それに関わった建築家が知られていないことが多い。
本書は、そんな地方で活躍した建築家のひとりである、薬師寺主計について紹介する1冊である。
薬師寺は今の岡山県総社市で生まれた。
東京帝国大学工科建築科を卒業後に陸軍省技師として勤務することになった。
その時代の薬師寺には、宇垣一成という強力な後ろ盾が存在した。
宇垣一成は岡山県出身の陸軍大将であり政治家で、近衛文麿内閣の外相、拓務相についた人物で、宇垣の存在は当時の岡山出身者には相当に心強い存在であったに違いない。
薬師寺は陸軍省時代にも様々な建造物に関わっているが、彼の仕事は郷里に戻った後のほうが重要なのかもしれない。
郷里に戻った薬師寺は、郷里の有力者である大原孫三郎の仕事に数多く関わっている。
例えば第一同号銀行倉敷支店や大原家の別邸である有隣荘、大原美術館本館、倉紡中央病院などなど。
パトロンの別荘はもちろんのこと、銀行建築から病院建築、さらには美術館までと幅広く多彩である。
これらの建造物は現存しており、薬師寺の力を強く感じさせてくれる。
さらに倉敷絹織株式会社(現在の株式会社クラレ)の取締役に就任し、経営者としての顔も持っていた。
時代を特徴づける建造物は確実に存在する。
そして、地方を特徴づける建造物もまた存在し、それを担った建築家も存在した。
建造物は、ややもすると当たり前の風景として日常に溶け込んでしまいがちである。
著名な建築家の設計によるものであればいざしらず、その重要性が見出されていないままの人物も数多く存在するであろう。
薬師寺主計の場合、地元の研究者が発掘し、書籍という形にして世に示してくれた。
そこで価値が高まり、建造物そのものの価値づけにも繋がっているのではないであろうか。
文化財指定されていない建造物は、油断すると壊されてしまう(油断してなくても壊されるときは壊されてしまうが・・・)。
そこに建つときは大きな存在感があった建造物も、壊されてしまうと、すぐに忘れ去られてしまう。
それは驚くほどあっさりとしたもので、新しい建造物が跡地に建ってしまうと、その風景に記憶は簡単に更新されてしまう。
地方にも数多くの面白い建造物が存在し、それを手掛けた建築家がいた。
書籍はその存在を広く知らしめてくれる大きな責任も担っていると考える。
本書はその役割をきちんと全うしている良書と考える。
数多くの人の読んでもらい、散策の友にしてもらいたい1冊である。
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ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
それでも、まだ偏り気味。
いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい!
この書評へのコメント
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- 出版社:柏書房
- ページ数:0
- ISBN:9784760146956
- 発売日:2016年03月24日
- 価格:3080円
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