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たけぞう
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バイカル湖で隠遁生活を送る。
著者はフランス人の冒険家です。巻末で、バイカル湖の北杉岬での小屋暮らしを実現するために協力してくれた人への謝辞が述べられています。そして、仏露交流年にあたっての事業の一環で行われたと書いてありました。

驚きました。政府間のこんな交流があるんですね。とはいえ、著者はこの機会をうまく使ったというのが実情だと思いますが。著者は冒険家で、自らの体験をベースにするスタイルです。これまで、旅行記やエッセー、小説を書いています。でも、シベリアに常駐するなんてなかなかできることではないと思います。こうして作品として読めたことに感謝します。

バイカル湖のほとりには六軒の拠点があります。バイカロ・レンスキー保護区といい、中央にある基地と、小屋にいる森林保護官たちが仲間です。小屋のひとつに五十代の夫妻がいて、妻の静脈炎の静養が必要となり、イルクーツクへ行こうと考えていました。十五年も小屋にいた人たちです。著者は、この夫妻の代わりに小屋の住人を半年間務めることになったのです。

森林保護官の主な任務は密猟者の取り締まりです。しかし本文にはそんな場面はまったく出てきません。たぶん経験の深い他のメンバーが担っているのでしょうね。文中では、著者が小屋にいるから救われた熊も多いよと、仲間から声をかけられる場面があります。なるほど、そういうチームワークなんですね。

そんな役割の著者ですから、やることはありません。もちろん自分で求めた世界なので不満はありません。著者はこう言います。
心のなかに自由を感じ取れるようになるためには、だだっ広い空間と孤独が必要だ。それに加えて時間をコントロールすること、完全な静けさ、過酷な生活、素晴らしい土地との接触もまた必要である。
著者にとって、バイカル湖畔での小屋生活は理想どおりのようです。大量の本、ウォッカ、食料を持ち込みます。イワナを釣ったり、二千m級の山に登ったり、五時間かけて隣の小屋の住人に会いにいったりしています。
ほかの小屋の住人もしばしば訪問してきて、その都度ウォッカやビールを大量に空けています。

自らの生活を隠者と呼びます。この作品は、毎日のできごとや、考えたことをメモに綴ったものです。硬質な文章からは、シンプルに生きて、考え続ける姿勢が伝わってきます。行間から、生きる哲学が伝わってきます。修験者みたいです。

さくさくとは読めません。文章は、あおり的な表現はなく、ストーリー性もありません。じっくりコトコトと煮込み続ける思索の書と評せばイメージが湧くでしょうか。
みすず書房さん発行というのも、この本を選択したきっかけの一つです。さすがだと思いました。魅力を言葉で表すのが難しい一冊です。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

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