ゆうちゃんさん
レビュアー:
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米ソ冷戦の最中、ラジオ放送が一瞬、乗っ取られる。「スポンサーから一言」「戦え」。この言葉の発信者と真の意図を巡ってアメリカ政府要人が侃侃諤諤の議論をする。
こちらも「やりなおし世界文学」の一冊である。著者のフレデリック・ブラウンと言えば「発狂した宇宙」で有名で、自分はこれ一作しか読んだことはない。「やりなおし世界文学」では必ずしも取り上げた作家の有名作を挙げている訳ではないのだが、読んだことのない本は主に純文学から選んできたので、最初は本書をあまり読む気がしなかった。ところが、もう1年近く前になるが2023年6月の朝日新聞の「科学季評」に山極寿一氏のコラム「戦争を止める真摯な姿勢~『スポンサーから一言』の教訓」で本書の引用があったので読んでみた。この記事が出たのはG7広島サミットの頃で、各国首脳が広島の原爆資料館を訪問したのが話題になっていた。山極氏は「スポンサーから一言」の概略を説明した上で、戦争をしないためには、ブラウンの作品を引用して、戦争をする気にならないほどの高度な科学技術を作り上げねばならないという。そしてこの短編を踏まえ、最近のコロナパンデミックを引き合いに、人間が必ずしも地球の支配者でもないと言っている。最後にやはり「スポンサーから一言」に描かれるアメリカ大統領の姿勢を評価し、指導者は専門家や国民など多くの意見を聴かねばならないという言葉で締めくくっている。
新聞記事の紹介にすっかり行数を費やしてしまったが、本書は21の短編からなる。扉には、ショートショートの名手と紹介されていたが3頁の短編から最長58頁の中編まで主としてSFの作品が載っている。いずれも1950年頃の作品で、SFとしてはいかにも古めかしい。太陽系の惑星に生物が住んでいたり、異星人との交戦があったり、またパラドックスをネタにしたタイム・マシンものも数編ある。この種のSFはアシモフの初期短編集やその他の作家で読んできたので、「やりなおし世界文学」の一冊で取り上げられなかったら、前記の新聞コラムを読んでも、読んでみようとは思わなかっただろう。冒頭の一篇は「土人の魔術」という3頁のショートショートだが、これは魔術をネタにした作品でSFではない。未来を描いた筈のSFが古びてしまい、こういう普通の作品が古びないのは皮肉としか言いようがない。読んだ感じではSF的設定(宇宙船の中とかタイム・マシンなど)は、著者の考えたトリックの仕掛けに過ぎず、要するに落ちに向けたアイデアやプロットを楽しめるように作られた作品のように思えるのだが、どうしてもこういう小説の舞台環境が古めかしさを感じさせてしまう・・。。
せっかくなので印象に残った作品を幾つか取り上げる。表題作の「スポンサーから一言」は、1954年6月9日午後8時半に世界各地で起きたことを述べている。つまりこの現象は、その当地時間の午後8時半に起きる現象で、時差を伴って24時間で地球を一周するのである。当時のメディアと言えばラジオ。8時30分になると一瞬の沈黙を経て「スポンサーから一言」「戦え」と放送が入る。喧嘩をしていた人たちはこれを聞いて逆に喧嘩を止める。物語の主要な舞台はホワイトハウスの大統領が主宰する閣議に移る。当時は冷戦最中で、閣議では開戦するかどうか議論が続いていた。大統領はこの現象に興味を持ち、自らもこのスポンサーの言葉を聞く。人とは訳のわからない者から命令されると却ってやりたくなくなるものだった。大統領は電子工学、心理学、哲学、天文学などの権威を集めてこの現象を議論する。国防長官は、この閣議は開戦について議論していたのだから議題を元に戻せ、というのだが・・。
「地獄の蜜月旅行」は、宇宙飛行士を退役し、当時最先端のコンピューター「二代目」のオペレーターになったカーモディーの話。当時、なぜか男児の出生率が異常に減り、とうとうゼロになった。学者たちが議論した結果、地球のどこかから異星人が電波を出して生殖を偏らせ人類滅亡に導こうとしているのでは、ということになった。この電波から逃れるために月で男女数組を新婚生活を送らせようと言うことになった。月に行ったことがある宇宙飛行士で独身なのはカーモディーだけ。彼はソ連の女性アンナと地球上で結婚式を挙げ、それぞれロケットに乗り月で新婚生活を送ることになったのだが・・。
この作品はこの短編集の中で最長で、これも1950年代に書かれたものあるが、当時からコンピューターというものに人工知能的なものを求めていたというのが面白かった。取り上げたふたつの作品は米ソ冷戦も背景にしてみる。それも作品の古めかしさの一因かもしれない。土人という言葉も幾つかの短編で見られ、言葉やSF的な想定は古く、今は、この様な小説を手にする人は少ないのではないかと思う。
新聞記事の紹介にすっかり行数を費やしてしまったが、本書は21の短編からなる。扉には、ショートショートの名手と紹介されていたが3頁の短編から最長58頁の中編まで主としてSFの作品が載っている。いずれも1950年頃の作品で、SFとしてはいかにも古めかしい。太陽系の惑星に生物が住んでいたり、異星人との交戦があったり、またパラドックスをネタにしたタイム・マシンものも数編ある。この種のSFはアシモフの初期短編集やその他の作家で読んできたので、「やりなおし世界文学」の一冊で取り上げられなかったら、前記の新聞コラムを読んでも、読んでみようとは思わなかっただろう。冒頭の一篇は「土人の魔術」という3頁のショートショートだが、これは魔術をネタにした作品でSFではない。未来を描いた筈のSFが古びてしまい、こういう普通の作品が古びないのは皮肉としか言いようがない。読んだ感じではSF的設定(宇宙船の中とかタイム・マシンなど)は、著者の考えたトリックの仕掛けに過ぎず、要するに落ちに向けたアイデアやプロットを楽しめるように作られた作品のように思えるのだが、どうしてもこういう小説の舞台環境が古めかしさを感じさせてしまう・・。。
せっかくなので印象に残った作品を幾つか取り上げる。表題作の「スポンサーから一言」は、1954年6月9日午後8時半に世界各地で起きたことを述べている。つまりこの現象は、その当地時間の午後8時半に起きる現象で、時差を伴って24時間で地球を一周するのである。当時のメディアと言えばラジオ。8時30分になると一瞬の沈黙を経て「スポンサーから一言」「戦え」と放送が入る。喧嘩をしていた人たちはこれを聞いて逆に喧嘩を止める。物語の主要な舞台はホワイトハウスの大統領が主宰する閣議に移る。当時は冷戦最中で、閣議では開戦するかどうか議論が続いていた。大統領はこの現象に興味を持ち、自らもこのスポンサーの言葉を聞く。人とは訳のわからない者から命令されると却ってやりたくなくなるものだった。大統領は電子工学、心理学、哲学、天文学などの権威を集めてこの現象を議論する。国防長官は、この閣議は開戦について議論していたのだから議題を元に戻せ、というのだが・・。
「地獄の蜜月旅行」は、宇宙飛行士を退役し、当時最先端のコンピューター「二代目」のオペレーターになったカーモディーの話。当時、なぜか男児の出生率が異常に減り、とうとうゼロになった。学者たちが議論した結果、地球のどこかから異星人が電波を出して生殖を偏らせ人類滅亡に導こうとしているのでは、ということになった。この電波から逃れるために月で男女数組を新婚生活を送らせようと言うことになった。月に行ったことがある宇宙飛行士で独身なのはカーモディーだけ。彼はソ連の女性アンナと地球上で結婚式を挙げ、それぞれロケットに乗り月で新婚生活を送ることになったのだが・・。
この作品はこの短編集の中で最長で、これも1950年代に書かれたものあるが、当時からコンピューターというものに人工知能的なものを求めていたというのが面白かった。取り上げたふたつの作品は米ソ冷戦も背景にしてみる。それも作品の古めかしさの一因かもしれない。土人という言葉も幾つかの短編で見られ、言葉やSF的な想定は古く、今は、この様な小説を手にする人は少ないのではないかと思う。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- ISBN:B000JA9ILS
- 発売日:2022年12月28日
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