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hackerさん
hacker
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ちょっと飛躍しているかもしれませんが、児童文学ではあるものの、危機に際しての立場を超えての連帯というテーマは、先日再読したカミュの『ペスト』を連想してしまいました。
Rokoさんとプルートさんの書評で本書のことを知りました。感謝いたします。

作者のマト・ロヴラック(1899-1974)は、現セルビアのヴェリキ・グルジェヴァツで生まれました。生まれた時はオーストリア・ハンガリー帝国に属していた土地ですが、死亡時にはユーゴスラビアに属していました。彼が作品に使っていたのはクロアチア語で、20世紀クロアチア児童文学を代表する作家と目され、1933年刊の本書は代表作の一つとされています。

内容は、他の方の書評でも語られていますので、詳細は省きますが、簡単に言うと、ヴェリコ・セロという村の小学校最上級生たちが、町に遠足にでかけた帰りの汽車が、吹雪の中で立ち往生してしまい、氷点下20度になろうかという寒さの中で、このままだと全員凍死してしまう恐れがある状況に追い込まれるというものです。しかし、この生徒たちは「ヴェリコ・セロの子ども同盟」を結成しており、選挙でそのリーダーに選ばれた男の子を中心に、交替で大人と一緒に雪かきを行い、この危機を脱するのです。

ちょっと飛躍しているかもしれませんが、児童文学ではあるものの、危機に際しての立場を超えての連帯というテーマは、先日再読したカミュの『ペスト』を連想してしまいました。本書の生徒たちも、全員が素直にリーダーに従ったわけではなく、リーダーと反目し合う男の子もいて、別グループを作ったりしますし、二つのグループ間をふらふらする優柔不断な子どももいます。選挙の際にも一種の賄賂が横行したりします。要するに、大人の世界の現実が、かなり反映している設定になっているのです。

さらに、発表された1933年という時代のユーゴスラビアという国の状況も反映しています。ユーゴスラビアは1918年にセルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国として誕生しましたが、1929年にユーゴスラビア王国に改名しました。ですから、本書は一つの国として団結する必要性を説いたものと解釈できます。外的圧力としては、刊行前年7月のドイツでナチスが第一党になったこと、そして刊行年の1月にヒトラーが首相になったことがあります。実際に、1941年には枢軸国各国の侵略を受け、一時ユーゴスラビアは消滅しますが、第二次大戦後に、チトーをリーダーとした社会主義体制国家として復活します。チトーはスターリンとは対立し、独自の社会主義路線を歩みましたが、1980年のチトー死後、一つの国としてまとまっていくことが困難になり、各民族が独立国家を作るようになりました。現在では、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、北マケドニア、スロベニア、モンテネグロ、コソボの7か国が、旧ユーゴスラビア国として位置づけられています。そして、そこに至る過程で、1991年から10年続いた悲惨なユーゴスラビア内戦を経験しました。クロアチア独立戦争と称される争いも1991年か1995年まで続いたのです。

ですから、今となって、本書を読むと、どうしても苦い想いが湧いてきてしまいます。別の理由ではありますが、そういう点も『ペスト』の読後感と似ています。ただ、現実がどうであろうと、理想は常に持ち続けなければならないと作者は語りたかったのではないでしょうか。何事によらず、現実べったりでは、進歩というものがなくなってしまいます。もちろん、現実から乖離していたら絵空事になってしまうだけなので、結局そのバランスをどう取りながら、どう生きて行けばいいのかを考えなければいけないのでしょう。児童文学とはいえ、その背景には深い想いがあるようです。
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2281 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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